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【朝晴れエッセー】スイカとテレサテン・8月12日

 小学校4年か5年の夏だった。ボクは同級生の友達と「8時だョ!全員集合」の公開生放送を隣町の市民会館で観覧することになった。友達が番組スポンサーの親戚(しんせき)から招待券を手に入れてくれたのだ。

 土曜当日学校から帰ると、はやる気持ちを抑えきれず昼飯をさっさとすませ、電車に飛び乗った。放送は8時始まりなので当然ながら相当早く着いてしまった。時間を持て余したボクたちは、会場そばのスーパーにおやつを買いに行くことにした。

 お菓子の品定めをしているとき、友達が小さな声で叫んだ。「あれ見てみ、テレサテンじゃない?」「うそ。うわ、本当だ。すげー! 本物だ」。友達の指さす野菜コーナーに立つお姉さんは、普段着のワンピース姿ながらテレサテンその人だった。とてもキレイでドキドキした。彼女の買い物かごには、大きなスイカがただ一つ。

 有名人なのになんでスーパーなんかで買い物をしているんだろう。ボクたちは少し得した気分で遠巻きに彼女を見つめた。華奢(きゃしゃ)な腕で重たそうにかごを抱えていたが、彼女の横顔は楽しげで、きっと幸せな時間を過ごしていたに違いなかった。

 テレサテンはその夜、歌のゲストだった。舞台衣装を着た彼女はなおさらキレイだった。ボクはステージで歌うアイドルと、スーパーにいた普段着姿の彼女の残像とを、交互に夢見心地で見比べていた。

 随分と年を重ねた今、私は時々思い出す。夏のあの日、彼女は買ったスイカをあのあとどうしたのだろう。そう考えたのち、少し切なくなる。

一宮 学 55 埼玉県所沢市

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