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【日曜に書く】論説委員・中本哲也 映画が支えた酒造りの伝統

 広島県東広島市の南部、瀬戸内海に面する安芸津町は「吟醸酒発祥の地」といわれる。安芸津港からフェリーで35分の大崎上島で育った筆者にとっては、「本州の玄関口」である。

 6月に帰省した際、JR安芸津駅から歩いて3分ほどの町なかに蔵を構える「柄(つか)酒造」を訪ねた。

◆恋のしずく

 創業170年の歴史ある酒蔵である。明治中期に建てられた母屋と蔵は、昨年2月に66歳で亡くなった俳優、大杉漣さんの最後の出演作品になった映画「恋のしずく」(瀬木直貴監督)のロケに使われた。

 蔵元を演じた大杉さんが急逝したのはクランクアップの3カ月後だった。そして、劇場公開(昨年10月)を前に、柄酒造は西日本豪雨に襲われた。近くを流れる三津大川の氾濫で床上まで浸水し、麹室(こうじむろ)やボイラー、圧搾機などの機器類がすべて使えなくなった。酒蔵としては壊滅的な被害である。

 「しばらくは、酒造りを再開することは考えられなかった」と、蔵元の柄宣行社長(64)は振り返る。「廃業」も頭に浮かんだという。

 災害から約1カ月、瀬木監督ら映画スタッフが、復旧作業の手伝いに駆けつけてくれた。

 「被災する前の蔵を映像に残せて良かった」。柄社長は弱気な言葉を口にした。それを聞いた瀬木監督らは「元通りにしましょう。酒造りを再開してください」と熱心に励ました。

 映画のスタッフに「背中を押され」、年明けとともに酒造りを再開した。再起第1号の純米大吟醸原酒のラベルに、柄社長は朱書きで「感謝」の2文字を添えた。

◆吟醸酒の父

 「広島の酒処(どころ)」といえば、同じ東広島市でも安芸津よりも山間に位置する西条の地名がまず浮かぶ。映画「恋のしずく」も舞台は西条だ。

 「酒処・広島の中心地は西条ですが、そのルーツは安芸津だというプライドがある」と柄社長は静かに語った。

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