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【直球&曲球】春風亭一之輔 「愛嬌」の裏に見える芸人の地力

春風亭一之輔
春風亭一之輔

 噺家(はなしか)・芸人の世界は芸が上手(うま)けりゃ、いいわけじゃない。その上に『愛嬌(あいきょう)』が肝心だ。面白いことを言うのが愛嬌ではなく、『愛嬌』は無理にこしらえたら興ざめで、自然に滲(にじ)み出るおかしみが『愛嬌』。

 『愛嬌』はその芸人の「もって生まれた気質」と「重ねた経験」と「たゆまぬ努力」を混ぜ合わせて、しばらく置いたら浮いてくる上澄みのようなものか。

 だから『愛嬌』の裏には同時に芸人の『地力』も透けて見えるはずだ。

 昭和の名人と謳(うた)われる八代目(先代)・桂文楽師匠の研ぎ澄まされた芸はまさに一級品だ。艶のある声、無駄のない仕草(しぐさ)、一寸たりとも狂いのない緻密な芸。だが、時おり見せる「フフっ」という笑みにはたまらない愛嬌がある。

 文楽師匠と双璧をなす五代目・古今亭志ん生師匠。こちらは奔放な語り口調・奇想天外なギャグ…どれをとっても愛嬌のかたまり。顔は仏頂面なのに噺に入るとあれだけの愛嬌がはじけるのはなんなんだ。いとおしいくらい。

 世情のあらで飯を食うわれわれ噺家と正反対(?)の、世の為(ため)、人の為に尽くすべき政治家の『愛嬌』はどうか。同じ人前に立つ“商売”だ。やっぱり愛嬌は要るかと思うが、目につくのはできる算段もないのに耳心地のよいことばかり並べる人。

 べらんめえ口調で言えば大衆受けして乱暴な物言いも許されると思っている大臣。身に余る立場に浮かれてたびたび失言を繰り返した元大臣。笑顔といえば「嘲(あざけ)り笑い」しかできないどこかの偉い人。内面から滲み出る『愛嬌』はなく、あるのはその場しのぎの軽薄なヘラヘラ顔。共にあるべきはずの『地力』などあるようにはとても思えない。

 普段温厚な文楽師匠は怒ると「天が許しませんよっ!」とおっしゃったらしい。怒りながらもそれを天に委ねちゃうところに師匠の『愛嬌』を感じる。「恥を知りなさいっ!」と芝居がかりでまくし立てた議員がいたが、「いやいや、あなたに言われたくないですよ」。

 『愛嬌』は大切だ。自戒を込めてそう思う。

【プロフィル】春風亭一之輔

 しゅんぷうてい・いちのすけ 落語家。昭和53年、千葉県生まれ。日大芸術学部卒。平成13年、春風亭一朝に入門して朝左久、二つ目昇進時に一之輔を名乗る。24年、21人抜きで真打ちに抜擢(ばってき)。古典落語の滑稽噺を中心に、人情噺、新作など持ちネタは200以上。

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