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【朝晴れエッセー】祖母の家・7月11日

 昔昔、母方の祖母は鳥取県中部のその名も恐ろしい狼谷という地名のポツンと一軒家から山を越えて2軒だけの瀬戸に嫁ぎ、母が生まれた。母は大人の足で歩いて3時間以上の50軒ほどの集落に嫁いだ。結婚式で初めて父と顔を合わせたという。

 今は立派な道路ができているらしいが、当時祖母の家に行くには山を越え田舎道を歩いて歩いてまた山道を登っていく。曲がり角をいくつも曲がっていくと、いきなり2軒家が現れる。その時のうれしさは今も鮮明に覚えている。

 門をくぐると干し草のにおい、池にはハンザケ(サンショウウオ)が棲み、畑には真っ赤に熟れたトマトが香りを放っていた。夏でも冷たくて長く浸っておられぬ川の底にはイモリが…。

 母は農家の嫁からいっとき解放され、それはくつろいで祖母とやいとをしあったり寝転んで話に花を咲かせたりしていた。でも姉と私はわが家に帰りたくてぐずり祖母を困らせた。「もう一晩泊まってごせい(くれ)や。そしたらあげるぜ」と、額は忘れたが紙幣を握らせてくれたが…。

 大抵お盆を過ぎてから瀬戸に行ったが、8月19日ごろは夏休みの登校日。母は実家を去り難かったのだろう、ぎりぎりまでいて、登校日まだ暗い中、祖母の家を後にした。寂しい山道を歩いてだんだん明るくなっていく。家に着くなり小学校に走った。

 60年以上行っていない祖母の家は廃家になったと聞いたけど、今一番行きたい所である。残念ながら祖母の顔をはっきり覚えていない。せめて写真でも、と思うが、夢で終わりそうな気がする。

日高 弥生 78 京都市西京区

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