PR

ニュース コラム

【東京特派員】江戸前のノリが危ない 湯浅博

 「富津は、はぁ、ノリがダメだし、魚もめっきり減ってね。タコは小さくなったな」

 「寿々春丸」の女将(おかみ)、鈴木はるえさん(83)とは45年ぶりか。飛び込む富津弁は、相変わらずポンポンと威勢がいい。ただ、教えられる海の情報は、どこか寂しい響きがあるのは否めない。

 「江戸前」で知られた千葉県産ノリの収穫は、昭和50年代がピークだったから、釣宿を訪ねていた頃は漁獲も好調だった。ある時、はるえさんの亡き夫、英さんから「産経さん、海ですごいことが起きてるだよ」と教えられた。

 「東京湾にワタリガニが10年ぶりに戻ってきてさ。いやぁ、タコも釣れてつれて」

 こちらはガッテンと、両手にタコを持ってご満悦の英さんを写真に撮って記事を社に送ると、社会面のトップに掲載された記憶がある。その少し前まで、東京湾はコンビナートの工場排水と家庭の雑排水の汚染で、長く不漁が続いていた。ワタリガニの回帰につながったのは、湾内の水質がよくなってきた証拠である。

 それがいまは、昔に逆戻りしてしまったのだろうか。はるえさんの解説によるとこんなふうだ。

 「ノリは秋から翌年の春にかけて海で育てるだけんが、海水温度が上がって、ノリの養殖が厳しくなった。旦那は、はぁ、随分前にやめちまってね。3・11の東日本大震災では、海底の砂が移動して魚介も産卵がしにくくなったようだ」

 千葉県産のノリは53年度の6億枚をピークに、徐々に減り始め、この春までで1億4千万枚にまで激減している。原因は地球温暖化で日本近海の海水温が、この100年で1度上昇したためだ。この1度の温度差がノリ養殖は深刻な打撃を受ける。

 以前なら10月に入って、海水温は23度以下に下がった。いまは、数週間も遅れるからノリの生育期間が短くなってしまった。水温の上昇は赤潮の発生を招き、栄養素が不足してノリの色が薄くなる被害も出た。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ