PR

ニュース コラム

【朝晴れエッセー】藁草履・6月13日

 古里である群馬県の山間地には妹夫婦が健在だ。一昨年帰省した際妹は藁(わら)草履を履いて出迎えてくれた。戦中戦後のわが村に満遍なく愛用されていたお手製の履物が重宝されていたことに驚いた。妹は昔を思い出し老境の趣味として藁細工を始めたのだと聞いた。

 帰京して1、2週間後、藍(あい)色の布切れを混ぜた特製の藁草履が送られてきた。なめたようにきれいに編んだ品は左右のバランスもよく、見た目もよかった。数日柱につるして眺めてから洋室の板の間で使い始めた。

 靴主流の現代人の足指はいつも「グー」の状態だが、この藁草履はすべての指が「パー」状態に開いたまま、足に草履がフィットして歩き回れる。その軽さ、思わず走ってみたい衝動に駆られた。

 終戦の日を思い出す。その朝も13歳の私は草履を1足編んだ。私には3人の遊び盛りの弟妹がいた。父は杉材で下駄(げた)作り、私は一日一足草履作りを課されていた。父の下駄も鼻緒がきついとかで妹たちに敬遠され、私の草履も左右のバランスが悪いと嫌われた。「仕方ねえだべ」と母が諭した。「こんな時代なんだ、履いてりゃええも悪いもわかりゃせん!」

 あめ色のゴム靴も学用品も、とうに雑貨店から消えていた。私も弟妹に言った。「大切に履けよ、走っちゃいかんぜ」

 過日役所の広報でくしくも、藁草履作り講座の案内を見た。老いの趣味として最適だ。友人を誘ってのぞいてみようかな…。

佐々木 恒男 86 東京都葛飾区

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ