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【北京春秋】握りしめ続ける記憶

 ベンチに座り天安門事件の関係者が帰宅するのを待っていると、行き交う人々からノイズのような音が聞こえてきた。手にしているのはクルミ。手のひらで2つを握りながらくるくる回しており、聞こえたのはクルミの擦れ合う音だった。こうすることで気血の流れがよくなるという伝統的な健康法だ。数十年使い込むと渋い褐色になり美術品としての価値も出てくる。

 天安門広場周辺でデモに参加した男性によると、30年前の晩春、北京の病院は暑気払いの作用がある緑豆粥(がゆ)を学生たちに振る舞ったという。「当時は人と人との間に信頼関係があった。北京の最も素晴らしい時期だったと思う」

 北京で暮らす女性も「多くの市民が学生たちに声援を送った。大通りは人で埋まったが、秩序は保たれていた」と振り返る。

 中国共産党は民主化運動を少数の人間による「動乱」と規定した。確かに学生組織が迷走を繰り返した側面もあった。だが当時を知る人々の話を聞くと、市民の多くは、将来中国を背負って立つエリート学生たちを温かく見守り、運動を積極的に支持していたことが実感できる。

 今、中国社会では天安門事件について声を上げることは許されない。弾圧事件を目撃した人々は、陰惨な記憶をまるでクルミのように握りしめ続けている。(西見由章)

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