PR

ニュース コラム

【論壇時評】6月号 令和新時代の国際秩序とは 文化部・磨井慎吾

米中閣僚級貿易協議のニュースを伝える街頭の大型モニター=10日午後、東京・秋葉原
米中閣僚級貿易協議のニュースを伝える街頭の大型モニター=10日午後、東京・秋葉原

 新元号が始まって最初の論壇誌発刊号となる6月号。多くの論壇誌が「令和」を大見出しに取って、平成年間に生じた大きな変化を改めて振り返りながら、来るべき新時代の見通しを描いている。

 中でも顕著に力が入っていたのが、Voiceの総力特集「新しい国際秩序と令和の日本」。平成の30年間は国際的にみると冷戦後の30年とちょうど重なっており、前時代に明確だった価値観が行き詰まった思想的状況も共通している。国際政治学者の中西寛「冷戦後の三十年とは何だったか」はそうした認識に立った上で、「社会主義に対する自由主義の勝利」から始まって、自由主義への幻滅の広まりの中で幕を閉じた30年間の診断を試みる。

 そもそもこの時代は、出発点からボタンの掛け違えが生じていたのではないか。ソ連共産主義は直接的には自由主義ではなく国内の民族主義に敗れて自壊したのであり、冷戦終結の根本原因も第一には情報テクノロジー分野をはじめとした西側諸国の物質的、技術的優位という即物的要因に求められるべきなのだが、西側諸国は自らが奉じる政治的価値観が優越したためだと早合点し、自由主義という理念の行き過ぎに歯止めをかける現実主義とのバランスが崩れた。

 その結果、1980年代末からしばらく盛り上がった世界新秩序論、2000年代末まで続いたアメリカ帝国論、その後のリーマン危機を受けての自由経済協調論など、自由主義の勝利を楽観した秩序構想が提起されては、その都度裏切られた。台頭する中国や軍事大国として復活したロシアも自由民主主義の方向には進まず、国際秩序の再編期を迎え価値観の相違による不信と対立が深まる世界は「情報文明時代の『文明の衝突』を迎えつつあるのかもしれない」と中西は論じる。現実主義の国際政治学者の立場から見た、現在世界を理解するための有用な補助線となる論考だ。

 くしくも今月号の中央公論には、かつて冷戦終結期に『歴史の終わり』を発表し、自由民主主義の最終的勝利を宣言した米政治学者のフランシス・フクヤマによる「民主主義の脅威『ポピュリズム』とは何か」が掲載されている。そこでフクヤマが「この一〇年ほどを振り返れば、民主主義は後退期に入っている」状況を認め、「人類の歴史とは常に進歩であり、その道が最終的に行きつく先は自由民主主義だという私の考え方は変わらない。しかしそこにたどり着くまでに、まだしばらく、目が離せない時代が続きそうである」とかつての見通しを事実上修正していることも、併せて認識しておくべきだろう。

 Voiceの特集に戻ると、同じく国際政治学者の田中明彦による「大戦後の歴史的位相と米中新冷戦」も、「現在の国際政治の最大の課題は米中関係」とした上で、背景として第二次大戦後の国際秩序の形成から説き起こして、冷戦終結後の米国「単極」時代、そして米中新冷戦と呼ばれる現状に至る歴史の流れをコンパクトかつ濃密に俯瞰(ふかん)して読ませる。

 田中は現在の米国について、自由主義的世界秩序を維持するためリーダーシップを振るい続けることに疲れた1970年代以降の米国と相似しているとし、対する中国は軍事、政治的には当時のソ連と、また経済面では同時期の日本の立場と似た側面を持つ存在だと位置づける。そして現状の米中対立はトランプ米大統領の個人的資質とは離れた構造的なものと位置づけた上で、「もし一九七〇年代末から一九八〇年代にかけてのアメリカの行動が、今後の同国の行動に関するいささかのヒントとなるとすれば、アメリカの中国に対する姿勢はきわめて強硬であり続ける」と見通す。

 したがって日本のとるべき道は、日米同盟を維持しつつ、最大の貿易相手国である中国との関係も可能な範囲で築いていくという「はっきりしてはいるが、困難」なものとなるという見立ては説得的だ。国際政治学者、高坂正堯(まさたか)が語ったと伝えられる「米国とは仲良く、中国とは喧嘩(けんか)せず」との原則は、令和の御代でもいまだ有効なのだろう。

 同特集に、2011年の「アラブの春」以降の中東国際秩序のめまぐるしい再編をシャープに分析した「繰り返す『アラブの春』と新しい中東の秩序」を寄稿した池内恵(さとし)のブログ(5月18日付)によると、この特集の背景には「PHP研究所の研究部門『PHP総研』が行ってきたプロジェクトの副産物的な性質があり」、それは「シンクタンクの成果を一般雑誌に反映させ、政策をめぐる論壇の形成を目指していく」趣旨だとのこと。部数減や内容のマンネリ化などで全体に守りに入った印象があり、あまり明るい展望を聞かない論壇誌の世界で、珍しい正攻法の好企画だろう。=敬称略

関連トピックス

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ