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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】夕映え 5月16日

 会社からの帰り道、駅に向かう足が重い。暑さのせいばかりではないだろう。今日は、やることが、ことごとく裏目に出た。朝、いつもの電車に乗り遅れたのがいけなかったか、一度狂った歯車がかみ合うことはなかった。

 ため息交じりの足取りは注意力散漫。赤信号に気付かず、交差点の手前で人にぶつかってしまった。「すみません」。今日はもう使いたくない言葉が口をついて出た。うっかりすると目の前が潤んでしまいそうであわてる。

 すると、後ろでかわいらしい声がした。母娘の二人乗り自転車が信号待ちをしている。声の主は5歳くらいだろうか。

 「ママのバイクこわれちゃったんでしょ、おしごとどうするの」「しばらく電車で行くしかないね」「ふうん、ママたいへんだね」「ゆうなも保育園大変だね、お互い頑張ろうね」「うん、がんばろう」

 ザワザワと人の波が動き出し、青信号でわれに返る。少し遅れて私も踏み出した。心なしか歩みが軽やかに感じられる。2人を乗せた自転車は、どんどん遠ざかっていく。金色に染めた母の髪をキラキラとなびかせながら。

 そのときはじめて気付いた。鮮やかな夕映えの空に。まるで熟れた果実のような太陽が、満ちるシロップを思わせるあでやかな輝きを放つ。1日の終わりは、こんなにも光にあふれているのだと知った。そして、うつむいていては見えぬ景色を教えてもらった。まぶしさ胸に沁(し)みる夏の日の出来事。

水野めぐみ(47)パート 埼玉県草加市

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