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【ソロモンの頭巾】ツナミ学者、南海トラフに挑む 長辻象平

自宅の一部を「地震津波防災戦略研究所」にした都司嘉宣さん(長辻象平撮影)
自宅の一部を「地震津波防災戦略研究所」にした都司嘉宣さん(長辻象平撮影)
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 ■地震津波防災戦略研究所

 東海地方以西の太平洋岸一帯に繰り返し津波被害をもたらしてきた南海トラフ地震。その再来への警戒感が強まる中、1人のベテラン学者が3月に自前の研究所を設立した。

 「地震津波防災戦略研究所」(茨城県龍ケ崎市)-。所長は東大地震研究所で活躍した都司嘉宣(つじ・よしのぶ)さんだ。津波の専門家として国際的にも知られ、歴史地震学の第一人者。

 東大を定年で退官した後も民間機関で研究を続けていたが、70代を機に退職し、自分で合同会社組織の研究所を立ち上げたのだ。

 「南海トラフ地震を前に、やらなければならない仕事は山ほどあります」

 市町村規模での津波のハザードマップ作成や液状化診断などが、戦略研の主な事業内容だ。

 ◆避難タワーにも一役

一行が見学した歩道橋型の津波避難タワー(吉田町提供)
一行が見学した歩道橋型の津波避難タワー(吉田町提供)
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 4月16日、都司さんの姿は駿河湾に臨む静岡県吉田町にあった。ほぼ100年ごとに津波を伴う巨大地震が発生している地域に位置する人口3万人の町だ。

 都司さんに同行するマイク・リンソンさん、ローラ・ゴンザレスさん、エリー・ペレスさんは、中南米のエクアドル、コロンビア、ニカラグアからの若手専門家。国際協力機構(JICA)の支援で来日し、建築研究所国際地震工学センター(茨城県つくば市)で津波防災の先端知識を習得中のメンバーだ。

 一行が訪れた最初の施設は海岸から1キロほどの住吉地区の住宅街にある「津波避難タワー」。緊急時には住民がここに逃げる。道路をまたいで建つタワーは幅の広い歩道橋の構造だ。上面に1200人を収容できる。町内の津波危険地域には計15基のタワーが、それぞれ5分以内で避難できる場所に配置されている。

 避難タワーをはじめとする吉田町の津波防災対策の抜本強化は、2011年の東日本大震災を踏まえて始まった。町は当時、東大地震研究所の准教授だった都司さんの協力で正確な津波ハザードマップを作成。

上った避難タワーの高さは6.5メートル。ここに1200人が避難できる=静岡県吉田町住吉地区
上った避難タワーの高さは6.5メートル。ここに1200人が避難できる=静岡県吉田町住吉地区
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 それが諸対策の基礎になっている。歩道橋型の津波避難タワーは、田村典彦町長のアイデアだ。用地取得にかかる時間もコストも大幅に圧縮された。

 ◆古文書と数値計算で

 高知県四万十市も都司さんのアドバイスを生かしている自治体だ。

 四万十川に沿って山地が迫る同市にも斜面を利用した津波避難タワーがある。高齢者が斜面を駆け登るのは無理なので、先に上がった若い人が手回し式のゴンドラで、タワーの下から引き上げる。一度に約6人を運ぶ能力を備えている。

 「地形や人口特性を反映した避難タワーが配置され始めていることを多くの人に知ってもらいたい」と都司さんは話す。

 日本の津波研究者は約50人。都司さんは、その中で希有(けう)な能力を持っている。崩し字の古文書類を自在に読めるのだ。各地の社寺に伝わる歴史資料には過去の地震や津波の被害の記録もある。そこから震度や浸水範囲が浮かび上がる。

 南海トラフ地震のように周期的に起きる地震の場合、次に襲来する津波の規模の推定には、古文書類の記録が非常に有用だ。都司さんの手になる津波ハザードマップは、古記録から抽出した情報と緻密な数値計算を組み合わせて作成されている。

 ◆リスクの忘却に警鐘

 歴史への目配りが不足していると思いがけない落とし穴が待っている。

 安政と昭和の南海トラフ地震(1854年、1944・46年)では大きな津波被害を受けていないにもかかわらず、次の襲来では深刻な事態を迎えそうな都市もある。河川改修で、昔とは河口の位置が変わり、都市前面の自然堤防が削られているという変化が加わっているためだ。

 地下水利用で地盤が下がっている都市もある。

 過去に来た津波の半分ほどの高さの防潮堤しかないのに危機感を持たない都市も存在するという。

 過信や無関心によるリスクの肥大現象だ。

 ◆液状化の減災も視野に

 都司さんは古文書から発掘した土地の液状化などの情報も蓄積している。

 揺れが強い南海トラフ地震では、液状化が多発する。病院への道路が陥没すれば、手当てや救命もかなわない。救援物資の輸送経路の立案にも液状化が起きる場所の把握は必須だ。

 都司さんは、津波災害が起きると海外にも飛んで行き調査を重ねてきた現場主義の研究者だ。津波の脅威を全身で知っている。あたかもツナミバスター(津波退治人)。そのアドバイスは重い。地震津波防災戦略研究所(メールアドレスcharohappypochi@yahoo.co.jp)の業務は多忙の兆しをみせている。

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