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【一筆多論】近視の満たされぬニーズ 佐藤好美

体操の個人総合で争うワールドカップ東京大会で優勝した眼鏡姿のモーガン・ハード=7日、武蔵野の森総合スポーツプラザ
体操の個人総合で争うワールドカップ東京大会で優勝した眼鏡姿のモーガン・ハード=7日、武蔵野の森総合スポーツプラザ

 目が悪いのである。もともと強度の近視で、しかも右と左で差が大きい。眼鏡での矯正が難しいので中学時代からコンタクトレンズだ。母親は、「子供にコンタクトレンズ?」といぶかしんだが、医者が「審美のためではない」と太鼓判を押してくれたのだ。

 初めてコンタクトレンズをつけたときは、「世の中はこんなにきれいだったのか!」と感動した。

 しかし、年を経て老眼が生じた。その結果、矯正がさらに難しくなった。遠近両用を試したが近くが見えない。理屈はよく分からないが、新聞が読めないのは死活問題である。眼鏡と併用もしてみたが、あまり効果がない。眼鏡単独はさらにダメで早々に投げ出した。

 眼内レンズを入れる手術も検討した。経験者の話は色々だ。「人生が変わった」というほどマッチする人もいるが、「そうでもない」人もいる。「中距離」が見えるように手術をした知人は、「遠くも近くもよく見えない」と言う。冗談かと思った。結局、どこに焦点を合わせるかが課題なのだ。人間には調節能力があるが、眼内レンズには調節能力がないからだという。

 おっと。遠くにも近くにも焦点の合う眼内レンズもある。いわば眼内遠近両用である。でも、「真ん中が合わない」などという。この技術の進んだ世の中で、本当にそんな事態かと驚く。

 困難を感じて初めて、困っている人が少なくないと知った。「遠くを右目で、近くを左目で見ている」という人もいる(逆もある)。モノビジョンという。

 みんな「う~ん」と思いつつ暮らしている。「今の医療技術では仕方がない」と言われるからだ。そう言われればそれまでだが、生活に困らない程度に焦点の合う矯正具がほしいというのは、それほど過大な望みでもない気がする。

 遠方用の眼鏡をかけて地下鉄の階段を踏み外すのも、遠近両用レンズでキッチンに立って、野菜でなく指を切るのも困るのだ。

 医療には「アンメット・メディカル・ニーズ」という言葉がある。満たされていないニーズ、つまり、有効な治療法がまだない疾患の需要だ。ひょっとしたら近視の人はもう少し声を上げてもいいのではないか。

 近視は今や、世界人口の3分の1に上り、“パンデミック(大流行)”とも称される。特にアジアに多い。子供の近視も急増しており、専門家は「戦後以来の近視研究ブームです」と言う。原因は、遺伝や生活習慣とされるが、角膜から網膜までの長さ「眼軸長(がんじくちょう)」が成長期に伸びることが大きいと分かってきた。

 コンタクトレンズメーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケアはアジアで6歳~16歳を対象に、近視への介入研究を行っているという。

 スマホやパソコンの時間を管理する。早期から視力回復用の眼鏡やコンタクトレンズを使う。ある種の目薬を使う。日に1時間は戸外で日に当たらせる。日光を浴びることで眼軸長の伸びを防げるとされる。「矯正用具は目の健康を守る手段の一つにすぎない。近視は老後の転倒リスクも増やすから、もっと早期からトータルに取り組むことが重要」(スワミ・ラオテプレジデント)という。

 次世代は、私の悩みを漫画みたいだと笑えるようになるだろうか。早期介入に効果が出ることを期待するのである。(論説委員)

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