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【東京特派員】経済の殿堂で吠え返した 湯浅博

中国全人代の閉幕式で、大型スクリーンに映し出された習近平国家主席=3月15日、北京の人民大会堂(共同)
中国全人代の閉幕式で、大型スクリーンに映し出された習近平国家主席=3月15日、北京の人民大会堂(共同)

 正面玄関に近づくと、屋上から男女2つの彫像が見下ろしていた。男性像はハンマーをもち、女性像は糸巻きを手にしている。この堅牢(けんろう)な建物が建てられた大正期の経済を牽引(けんいん)した石炭と紡績をモチーフにした彫像だ。

 日本の近代化を推進してきた経済人たちの牙城「日本工業倶楽部」である。経済界の殿堂である倶楽部の会館に、労働者の像を掲げる経済団体は世界でも珍しい。大正6年の「工業家が力を合わせて、わが国の工業を発展させる」という一致団結の意気込みが伝わってくる。初代理事長は三井財閥の総帥、団琢磨である。

 東京駅に近いというのに、この伝統と格式のある堅牢な建物に入る機会はめったにあるものではない。たまたま、拙著『中国が支配する世界』が倶楽部の座談会世話人で、元東京銀行常務の柳沢昭雄さんの目にとまって、訪問する機会がめぐってきた。

 日本工業倶楽部といえば自由主義の知識人、河合栄治郎が昭和13年1月、いち早く「帝国日本の崩壊」への警鐘を鳴らした舞台として知られる。支那事変の拡大で戦火が上海に飛び火し、揚子江一帯に権益をもつ英国を刺激した。

 つい1年ほど前には、ファシズム国家と手を結ぶ日独防共協定が成立し、対米英関係が一気に悪化したときである。河合は工業倶楽部が日本を代表する経済団体であるところから、自らの危機意識を率直に語って覚悟を求めた。

 「この日中戦争の結果日本は、米英との戦争に突入し、満州、朝鮮はもとより、台湾、琉球をも失うことになるだろう」(猪木正道「解説」『河合栄治郎全集第十四巻』)

 日本が日独防共協定で枢軸側にくみした以上、米英両国を敵とする世界大戦へ突き進むと考えた。それがいかに危険で覚悟が必要なことか。

 この段階で、対米英戦争の危険を懸念していたのは、駐英大使の吉田茂ら一部の米英派ぐらいだった。まして、日米戦争に突入すれば満州、朝鮮、台湾はおろか、沖縄まで失うことになると予測する人物はさすがにいない。河合の大胆な見通しに、満座の経済人たちは衝撃を受けた。

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