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【新聞に喝!】批判なき豚コレラ対策の不思議

野生イノシシを媒介とした豚コレラの感染拡大防止のため、ワクチン入りの餌を準備する作業員=24日午前、愛知県小牧市
野生イノシシを媒介とした豚コレラの感染拡大防止のため、ワクチン入りの餌を準備する作業員=24日午前、愛知県小牧市

 □京都大学霊長類研究所教授・正高信男

 報道されることはほとんどないが、アフリカ豚コレラの脅威が迫っている。愛知県や岐阜県などで問題となっている豚コレラとは別物で、有効なワクチンはまだ開発されていない。ケニア発祥とされ、昨年後半に中国全土に蔓延(まんえん)した。これほど中国からの旅行者が多いと、豚肉製品の持ち込みを厳しく取り締まらない限り食い止めるのは不可能だろう。いつ日本にやってきてもおかしくない状況だ。

 いま東海地方に上陸したならば、同地方の養豚業は壊滅するに違いない。それでなくとも豚コレラの感染に苦慮しているからだ。こちらのワクチンはあるものの国は豚への投与をしぶっている。養豚業者の要求を抑えきれずに重い腰をあげ、野生イノシシのみを対象に投与を決めたが全くの愚策だと思う。

 産経の主張(2月26日付)は、ドイツがイノシシへの餌ワクチン投与で豚コレラを撲滅したと指摘した。日本でのワクチン散布は「手探りの状態で実施することになる」としているが、日独のイノシシの生息環境の違いを、どれほど認識して書いているかは不明である。

 平伏な丘陵地が主たる生息地であるドイツと違い、わが国には急峻(きゅうしゅん)な渓谷が多い。広い山間地にワクチン入りの餌が効力を発揮できるよう、どうやってまくというのか。有効性など宝くじを当てるのとたいして変わらないのではないか。

 今回の施策は、国際獣疫事務局が認める豚コレラ清浄国を返上しなくて済むよう、豚へのワクチン投与はしたくない。されど対処を求める現場の要求にも抗しきれない-という板挟みから逃れるための役人的な発想であろう。問題だと思うのは、効果の見通せない税金の浪費に対し、メディアからの批判が聞こえてこないことだ。感染がパンデミック(世界的流行)になり日本全土に拡大するかもしれないというのに、である。

 問題が深刻化している東海地方を拠点とし、普段は安倍政権批判が鋭い中日新聞の報道も、国の姿勢に対する批判のトーンが希薄だ。国会での野党の質問も同様で、統計不正問題をめぐる政権への忖度(そんたく)やアベノミクス偽装といった話題ばかり目立った。

 当局が割ける人員全てを動員して対処しているのは衆目の認めるところだ。察するに、野党側にはなまじ政府を追及すると、獣医学関係の人材拡充の必要性はかねて言ってきたと、切り返されかねないとの心配もあるのではないか。加計学園の獣医学部新設問題の折、反対派は関係職種が飽和状態にあると強弁したではないか、と。

 こうした事情で養豚業者が見捨てられた境遇にあるのだとすれば、国民生活と国政の論戦がかけ離れたものだと示す不幸な例になるだろう。

                   ◇

【プロフィル】正高信男

 まさたか・のぶお 昭和29年、大阪市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。学術博士。専門はヒトを含めた霊長類のコミュニケーションの研究。

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