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【日曜に書く】「無償の功名」でいい 論説委員・鹿間孝一

 記者生活44年になる。自慢できることはないが、思い出は多々ある。「新聞記者 司馬遼太郎」もその一つである。

司馬さんの原点

 司馬さんは昭和23年から36年まで産経新聞社に在籍した。京都支局や大阪本社文化部で記者として活躍し、「梟(ふくろう)の城」で直木賞を受賞したのは文化部長の時である。

 平成8年に亡くなった後、社内で追悼本を出そうという声が上がり、OBなのだから「産経にしかできない」記者時代を描こうということになった。それが司馬文学の原点と思われたからだ。

 取材チームに加わり、最初の打ち合わせで、古い本を見せられた。タイトルは「名言随筆サラリーマン」。著者の福田定一は司馬さんの本名である。昭和30年の刊行で、すでに絶版になっており、「この一冊しかないから」と全ページをコピーしたものが渡された。

 ちなみに「名言随筆サラリーマン」は3年前に「ビジネスエリートの新論語」(文春新書)として復刊されている。

 その中に「二人の老サラリーマン」という一文があった。

 司馬さんは、戦車兵で終戦を迎え、郷里の大阪に戻った。職をさがして闇市を歩くうち、空襲で焼け焦げた電柱に「記者募集」の貼り紙を見つけ、新興新聞社に入社した。そこで戦前からいくつもの新聞社を渡り歩いた老整理記者に出会った。

 ある夜、仕事を終えて2人で焼酎を酌み交わしながら「新聞記者の大成とは、何になることでしょう」と尋ねた。返ってきたのは意外な言葉だった。着たきりの兵服で、編集局の片隅の押し入れで寝起きする、どう見ても人生の敗残者としか思えぬ老人が、「うむ。おれのようになることだ」と自信満々に言い切ったのだ。

 「新聞記者ちゅう職業は、純粋にいえば、鉛筆と現場と離れた形では考えられないもんじゃ。抜く抜かれる、この勝負の世界だけが新聞記者の世界じゃとおれは思う。大成とは、この世界の中で大成することであって、昔の剣術使いが技術を磨くことだけに専念して、大名になろうとか何だとかを考えなかったのとおんなじことだよ」

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