PR

ニュース コラム

【新聞に喝!】個別に偏り、時代射抜けぬ国際報道

 ■神戸大学大学院法学研究科教授・簑原俊洋

 刻一刻と迫るイギリスの欧州連合(EU)からの離脱期限。「合意なき離脱」がより現実味を帯びるなか、外国企業のイギリス脱出-私は「ブレスケープ」と呼んでいる-の勢いが増している。ホンダが同国での自動車製造から撤退するとの報道もあったが、こうした動きは他にも波及すると見なしてよい。

 イギリスは第一次世界大戦終結後のパリ講和会議(1919年)までパックス・ブリタニカ(イギリスによる平和・支配)を謳歌(おうか)していた。しかし、かつての覇権国はちょうど1世紀を経て、世界のセンターステージからの退場を加速しつつあるのは明白だ。

 イギリスが衰退期に突入した頃は現在同様、政治のリーダーシップの質が極端に低下したという。かつて「パックス」を築いたローマ帝国や、スペイン(世界初の日の沈まない帝国)も、後退局面で無能な指導者による失政が覇権国としての退場を早めた。

 覇権国の〈隆盛〉と〈衰勢〉のサイクルは、避けられない歴史の宿命である。アメリカの建国の父たちはこの現実を熟知し、堅固な民主主義に根付く盤石な政治体制の礎を築きあげた。しかし、彼らがどれほど尽力しても、国力の漸減は回避できない。かつて世界の海洋を席巻した偉大なイギリスでさえも、昨今の悲しい姿に行き着くのである。それゆえ、地政学を理解せず、国益を顧ないトランプ大統領の誕生は、アメリカによる「パックス」が終焉(しゅうえん)へと向かう段階に入ったとの解釈に説得力を与える。

 この英米の帰趨(きすう)は今まさしく交差しようとしている。日本のメディアではあまり報道されていないが、インド洋上に浮かぶ島嶼(とうしょ)、ディエゴガルシアの領有権を失いかけているのも、イギリスの影響力の衰退を示唆する。同島はイギリスから米軍基地として提供されており、イギリスの施政権の喪失がアメリカの海洋支配力の低下に直結するのは必至だ。当然、この事実は海洋進出の野心を抱く中国にとって追い風となろう。

 国際政治における変化はまだ目視のみによって把握できない部分が多いものの、その鼓動は確実に従来とは異なる打ち方をしている。そして、それはやがて大きなうねりとなり、世界を動乱期へと導く可能性を、人間が刻んできた歴史が如実に示す。

 にもかかわらず、日本の諸新聞の国際報道では個別の出来事は理解できても、大局的な見地に立って全体的な流れと意義をつかむのは難しい。世界を形成できる大国としての意識の希薄さゆえか、報道は事実の説明にとどまっていることが多く、本質を射抜いて時代を的確に伝えるとの姿勢は影を潜める。財政的理由から海外支局を閉鎖する動きがあると聞くが、報道の質はむしろ一層の深化が期待されているのではなかろうか。

【プロフィル】簑原俊洋

 みのはら・としひろ 昭和46年、米カリフォルニア州出身。カリフォルニア大デイビス校卒。神戸大大学院博士課程修了。政治学博士。専門は日米関係、国際政治、政治外交史。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ