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【日曜に書く】論説委員・河村直哉 寅さんがいる風景

 第14作に出てくるコーラスグループも筆者には、左派の影響を残した当時の社会相を連想させる。

 戦後、職場などで合唱が盛んになった。「共産党の文化工作の一環」(河西秀哉氏『うたごえの戦後史』)としてスタートしたのが「うたごえ運動」である。『日本共産党の七十年』はこの運動を「その歌で平和と民主主義のたたかいをはげました」と位置づけている。

 30年12月12日の産経新聞社説はうたごえ運動について、「その(共産主義の)思想性をできるだけ表面から後退させ、政治色のない『文化運動』としての面を強調している」と指摘した。今の事情は知らないが、ソフトな大衆浸透工作としてのコーラス活動が、かつては広く行われたと思われる。

 ◆人間の本当の姿

 シリーズの原作者であり大半の作品のメガホンを取った山田洋次監督は、安全保障関連法に批判的な発言などもしている。しかし寅さんという極めて日本的な存在は、政治的な立場を超える。作品がつくられていた時代もそうだったのだろうし、今も筆者にはそう映る。

 寅さんは「労働者諸君」を朗らかなユーモアに変えた。寅さんにとって大切なのは家族とのだんらんであり、人々と笑い合うことであり、女性にあこがれることだっただろう。その笑顔はイデオロギーを吹き飛ばす。

 実際、共産主義の本家、旧ソ連は消滅した。寅さんは人間や世界の本当の姿を知っていたといっていい。

 晩年の渥美さんは病に耐えて出演した。遺作となった第48作「寅次郎紅(くれない)の花」の最後、更地になった阪神大震災の被災地に寅さんが現れ、被災者をいたわる。何と優しい日本人の姿か。

 渥美さん亡き後、一連の光景はもう「寅さんがいた風景」という過去のものになったと思っていた。そこに新作。「寅さんがいる風景」が待ち遠しい。(かわむら なおや)

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