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【日曜に書く】論説委員・河村直哉 寅さんがいる風景

 今年は「男はつらいよ」シリーズの第1作が公開された昭和44年から50年となる。年末に新作が公開される予定である。

 ◆良き日本の香り

 「特別篇(へん)」を含む49作を全部見ている。故渥美清さん演じるフーテンの寅さんこと車寅次郎は全国を気ままに旅し、時折思い出したように故郷である東京・柴又の団子屋に帰ってくる。

 ときに自分勝手で、よくすねる。かなわぬ恋にすぐ有頂天になる。けれども純情で人なつこく、どこまでも優しい。そんな愛すべき人物による人情劇が、下町の光景や、旅先での日本の原風景ともいうべき景色を交えながら繰り広げられる。

 第1作が公開された前年には日本の国民総生産が米国に次いで2位となっている。寅さんは経済大国路線につまはじきにされたか、あるいはあかんべえをするかのように、等身大で生きる。良き日本の香りが作品には満ちている。

 ◆左傾した時代を反映も

 渥美さんの死による事実上の最終作は平成7年。四半世紀以上もシリーズが続けば、画面に映り込む世相もおのずと変わってくる。

 以下は若干の勝手な感想にすぎない。最初のころしばしば出てくる寅さんのセリフや場面設定が、ささいなことなのだけれど筆者にはおもしろい。

 例えば第5作「望郷篇」(昭和45年)。何とこの回の寅さんは地道に働くことを決意する。

 団子屋の隣に小さい印刷工場がある。働くと決めた寅さんは陽気に歌いながら工場に向かい、声をかける。

 「おはよう、労働者諸君、今日から僕は君たちの仲間だぞ」

 あるいは第14作「寅次郎子守唄(うた)」(同49年)。思いを寄せる女性から働く人たちのコーラスグループに誘われ、寅さんは隣の工場の工員に幸せいっぱいの調子で呼びかける。

 「労働者諸君、お、一杯やってるか。よし、今夜は僕も参加しよう」

 そこで寅さんが陽気に口ずさむのは、第5作と同じ曲。「♪聞け~万国の~労働者~」。これは労働者の祭典であるメーデーの歌である。

 こうした言葉から筆者が連想するのは、マルクスとエンゲルスの『共産党宣言』の有名な文言「万国のプロレタリア(労働者)団結せよ」である。

 「男はつらいよ」シリーズが始まった昭和40年代といえば、左翼的な言葉がまだ社会にあふれていた。大学では学園紛争の嵐が吹き荒れた。よど号ハイジャックなど過激派の犯行も頻発した。

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