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【日曜に書く】ナイチンゲールと統計不正 論説委員・井伊重之

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厚生労働省が入る中央合同庁舎5号館=東京都千代田区霞が関(飯田英男撮影)
厚生労働省が入る中央合同庁舎5号館=東京都千代田区霞が関(飯田英男撮影)

 「近代看護の母」と呼ばれる英国のフローレンス・ナイチンゲールは、優秀な統計学者としても知られている。その名を一躍広めたのは、ロシアとトルコが争ったクリミア戦争(1853~56年)に英国が参戦し、従軍看護師のリーダーとして派遣されたことだった。

 そこで目にしたのは、戦地の劣悪な衛生環境の下で次々に倒れていく英国兵士の姿だ。ナイチンゲールは、戦闘による死傷者よりも病気などで死亡する兵士の方が多いという実態を報告した。その戦地報告が契機となって野戦病院の衛生状態が大きく改善され、兵士の死亡率は劇的に低下したという。

 ◆国を動かした戦地報告

 ナイチンゲールの報告は、統計を駆使して兵士の死因を詳細に分析したものだった。数字になじみがない人でも理解しやすいように図表にも工夫を凝らした。円グラフを分解し、死因をひと目で分かるようにした。それが国を動かす結果につながったのである。

 翻って現代の日本では、政府の統計不正が国を揺るがしている。厚生労働省が長年にわたって不適切な手法で「毎月勤労統計」を調査していたことが発覚した。東京都内の大手事業所には本来の実数調査ではなく、勝手に抽出調査に変更していた。調査の負担が大きいとの理由から、いわば手抜き調査が横行していたのだ。

 毎月勤労統計は、労働力調査(完全失業率)や有効求人倍率と並び、雇用情勢を判断する際の重要な指標となる。直接的な賃金動向だけでなく、所定内・外の賃金も内訳が示されることで、残業時間の増減も知ることができるからだ。これをみれば、企業が社員を増やそうとしているか、あるいは減らそうとしているかが推測できる。

 衆院予算委員会に参考人招致された厚労省の大西康之前政策統括官は、統計担当の責任者だった。大西氏は「賃金構造基本統計」の不正を報告しなかったとして今月1日に更迭されたが、毎月勤労統計の不正を把握したのは昨年12月13日で、5日後に上司に報告した。実は大西氏の前任者も不正を部下から知らされていたものの、上司に報告しなかったばかりか、改善を指示しただけだった。

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