【ソロモンの頭巾】長辻象平 アホウドリ完全復活 長谷川博さん、「準漂流者」42年の研究完了
鳥島生活「6年」
アホウドリ復活のために鳥島で過ごした延べ日数は6年にも及ぶ。「漂流者を除いたら最長でしょう」
長谷川さんが若手研究者の時代は、現代のような短期成果主義が猛威を振るう前だった。
だから、40年がかりの壮大な研究に取り組めた面もあるのだが、当然ながらそれだけでない。
調査には費用がかかり、長谷川さんは給与などから自己資金を投入している。さまざまな苦心と努力の積み重ねで到達したアホウドリの復活なのだ。
調査には不便が多いが、鳥島の夜の空と海の美しさは格別だ。百武彗星(すいせい)(1996年)の尾は全天の3分の1ほどまで伸びていた。
金星や木星なども月と同じように海面に光の帯を投げかける。人工照明が絶無なので、天体が本来の姿を見せるのだ。
ザトウクジラも訪れる。1998年4月、アホウドリのひなが初めて念願の100羽を超えたときには、3頭が海面に巨体を躍らせて飛沫(しぶき)を上げるブリーチングを繰り返した。「クジラから祝福を受けているような気がした」そうだ。
鳥島集団のアホウドリはこの先8年で、今の2倍の1万羽に達する見通しだ。
12月15日の離島の日、長谷川さんは船上からアホウドリたちに別れを告げた。
「元気でな、頑張れよ」と、心の中で呼び掛けながら手を振った。