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【主張】稀勢の里引退 真摯な姿勢が共感呼んだ

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引退会見で涙を浮かべる稀勢の里=16日、両国国技館(福島範和撮影)
引退会見で涙を浮かべる稀勢の里=16日、両国国技館(福島範和撮影)

 大きな喪失感がある。その一方で、痛々しい姿をこれ以上見ずに済むという安堵(あんど)も覚える。

 大相撲の横綱稀勢(きせ)の里が引退した。

 在位12場所の大半をけがの痛みに耐えてきた。皆勤は2場所、勝ち星は36勝と記録に恵まれなかったが、ファンの記憶には長く刻まれる横綱だろう。地位の重さ、けがの重さを一身に背負った苦闘の日々を、心からねぎらいたい。

 思い出すのは、平成29年の春場所である。終盤で左胸などを負傷しながら、千秋楽の本割と優勝決定戦を制し、奇跡的な逆転優勝を成し遂げた。君が代の斉唱で感涙にむせんだ姿は、相撲史に残る名場面といえる。

 引退会見では「けがをする前の自分に戻ることができなかった」と涙ながらに語った。

 状況が許されるならもう一度、万全の状態で土俵に立つ姿を見たかった。

 立ち合いの変化、奇策とは無縁で、真っ向から相手に挑む取り口は、すがすがしい後味を残してくれた。「稽古場が僕を強くしてくれた」という言葉にも、一本気な人柄が表れていた。

 一大勢力をなすモンゴル勢と好勝負を演じ、22年に横綱白鵬の連勝を63で止めた一番も忘れがたい。29年初場所後には、日本出身力士で19年ぶりとなる横綱昇進を果たし、日本中が沸いた。

 期待に応えようとする生真面目さが、あだとなった面はある。けがが治りきらないまま本場所に臨み、悪化させて再び休む負の循環は人気力士ゆえの宿命だろう。

 歴代横綱で最長の8場所連続休場には厳しい評価も聞かれる。惜しまれるのは、先代師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)が愛(まな)弟子の横綱昇進を見ることなく他界したことだ。横綱としての身の処し方などを聞ける存在が稀勢の里の身近にいれば、引き際も違った形になったはずだ。

 好角家はしかし、最後の土俵まで声援を送り続けた。人生は順風ばかりではない。向かい風にひるまず、死力を尽くす真摯(しんし)な姿に共感を覚えたからではないか。

 年寄荒磯を襲名した稀勢の里は「一生懸命に相撲を取る力士、けがに強い力士を育てたい」とも語っていた。稽古場の土にまみれ、辛抱を重ねて横綱へと上り詰めた経験は、指導を受ける後進の血肉となるに違いない。

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