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【石平のChina Watch】独裁者の「いつか来た道」

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演説する中国の習近平国家主席。米中貿易戦争に頭が痛い=2日、北京(AP)
演説する中国の習近平国家主席。米中貿易戦争に頭が痛い=2日、北京(AP)

 今月2日、中国の習近平国家主席は台湾問題に関する「重要講話」を行った。講話の中で彼は40回以上、「統一」との言葉を使って台湾併合への強い意志を示す一方、併合の具体案として「一国二制度」を提案した。

 「一国二制度」は、もともと、トウ小平氏がイギリスの植民地であった香港の中国返還を求めた際に考案した折衷案である。今になって習主席が独立している台湾に対してそれを言い出すのはお門違いだ。しかも、香港で実行された「一国二制度」は、結果的に香港の民主主義と法治を破壊してしまい、それが、最初から中国共産党の欺瞞(ぎまん)であったことが分かった。

 それを目の当たりにした台湾の民衆は中国の言う「一国二制度」に強い不信感を抱き、台湾への適用には、おおむね反対である。案の定、台湾の蔡英文総統は習講話当日に談話を発表し「一国二制度」をきっぱりと拒否した。

 それを待っていたかのように、習主席は4日、軍事委員会の会議で演説し、「軍事闘争の準備を確実に進めよう」と中国軍に指示した。

 一体どこに対して「軍事闘争の準備を進める」のかについて、習主席は明言しなかった。しかし、このタイミングからすれば、「一国二制度」を拒否した台湾を念頭に置いていることは明らかだ。実際、2日の対台湾講話でも習主席は、台湾に対して「武力の行使も放棄しない」と語っている。

 習主席の「軍事闘争準備指示」を受け、中国軍将校・兵士は、これから「練兵備戦」(兵を訓練して戦争に備えること)を急ぐことを誓った、と6日の人民日報や解放軍報が1面で報じている。

 このようにして、今年に入ってからわずか1週間、習主席の主導下で台湾情勢は一気に緊張が高まり、戦争の足音が聞こえてきたかのような雰囲気になりつつある。習主席はなぜ、このような猪突(ちょとつ)猛進のやり方で一年のスタートを切ったのだろうか。習主席の昨年1年間を見れば、その理由が分かってくる。

 2018年の1年間、習主席が進める個人独裁化や毛沢東回帰が国内の一部知識人や若者たちからの猛反発を招き、貿易戦争に関する一連の判断ミスと失策を犯したことで指導者としての権威は大きく傷ついた。貿易戦争の打撃もあって、中国経済は数十年ぶりの大不況に陥った。

 外交的には、習主席肝いりの「一帯一路」がアジア各地で挫折を遍歴し、欧米諸国からも総スカンを食らった。その一方、米中関係が国交樹立以来の最悪状態となり、貿易戦争は米トランプ政権の攻勢に圧倒される一方である。

 こうしてみると、習政権の2018年は、まさに四面楚歌(そか)・内憂外患の一年であったことがよく分かる。習主席にとって、就任以来最大の政治危機が、今そこにあるのである。

 それが故に、習主席は新年早々、台湾への攻勢を強め、それを政治危機打開の突破口にしたかったのではないのか。「祖国統一」の大義名分において台湾併合を進めていくと、党内と国内における自らの求心力を取り戻すことができ、反対勢力を押さえつけることもできる、と習主席は踏んでいるに違いない。そして、「軍事闘争の準備」を叫べば、軍に対する主席自身の掌握はさらに強固なものとなり、経済不況に苦しむ国民の視線を外なる危機にそらすこともできるのである。

 結局習主席は、対外的危機を作り出すことで自らの政治危機の回避を図るという、独裁者の「いつか来た道」をたどることになった。台湾人民にとってだけでなく、アジア全体にとって、中国の習政権はますますの脅威となり、災いの元となっていることは確実だ。国際社会は今後、この問題をより真剣に考えていくべきではないか。

                   

【プロフィル】石平(せき・へい) 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

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