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【論壇時評12月号】総合をあきらめる総合雑誌 強まる読者の分断 文化部・磨井慎吾

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会談する安倍晋三首相(左)とロシアのプーチン大統領=14日、シンガポール(共同)
会談する安倍晋三首相(左)とロシアのプーチン大統領=14日、シンガポール(共同)

 毎月、各論壇誌が届くと、まず表紙と目次をざっと眺める。その編集の質の判断基準はいろいろあるが、筆者名とタイトルの2つだけで読む前からおおよその内容の察しがつく記事ばかりの雑誌は、やはりあまり高く評価できない。毎月の定点観測でスレてしまった論壇ウオッチャーがすぐ思い浮かべるような予想を、うまく飛び越えてくる雑誌こそが面白いのである。

 Voiceの巻頭特集「沈む国・浮かぶ国」は、そうした予想をいい意味で裏切った内容だった。平素の同誌の保守的な誌面作りからすると、このタイトルならまた近隣諸国への批判特集だな、と多くの人が予測するだろう。しかし、論客のセレクトにはひねりが加わっている。

 たとえばロシアを論じる軍事アナリストの小泉悠「対露積極外交の裏をかくプーチン」は、対露接近を進める日本側に根強く存在する楽観論にくぎを刺す。台頭する中国への牽制(けんせい)カードとして対露関係改善を必要とする日本側の事情はロシアも先刻承知であり、取引としては「足元を見られる」立場に日本はある。そして米国との関係が悪化しているという点で中露は大局的な利害の一致をみており、軍事協力を含めた中露接近は進んでいる。そうした現状を示すことで、中露間の相互不信や利害対立を過大評価して日本に都合のいい交渉を期待しがちな一部の保守派の希望的観測に冷や水を浴びせる。

 朝鮮半島研究者の木村幹(かん)の韓国分析「なぜ対日政策が『雑』なのか」も、保守系の論者がしばしば主張する「韓国政府の反日政策は、支持率が低下したときの人気取り」との見方に実態面から異を唱える。少なくとも現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権について言えば発足時から高い支持率を保っており、慰安婦合意見直しや旭日旗問題提起などの一連の政策を「支持率のため」と説明するのには無理がある。対日強硬発言で大統領の支持率が動く状況が過去にあったのは確かだが、近年の韓国の顕著な経済成長とそれに伴う日本の影響力の急低下により、現在の韓国外交において対日政策は「雑」に扱っても構わないほど重要度の低いテーマと化してしまった。「国を挙げての反日政策」という分析は自意識過剰のたぐいであり、こうした嫌韓言説に従ってものを見ると現実から遊離する、という指摘である。

 2つの論考はともに、日本視点の「こうあってほしい」という希望的観測ではなく、相手国の内在的論理を理解した上で論を展開しており、他国に対する強い感情を抱いて自分の信念を補強する材料を求める読者にとっては、不愉快な事実を突きつけてくる「異物」かもしれない。だが、こうした記事が保守系誌に掲載される意味は大きいと考える。

 その問題と関連するのが、「新潮45」の休刊問題を切り口に今日の論壇誌(総合雑誌)の困難さを論じた武田徹「分断された読者を、雑誌は『総合』しうるか」(中央公論)。多様な読者を想定した多面的構成をとりながら、同時に雑誌としての統一性も持たせるという戦前以来の総合雑誌のあり方が、平成期を通じて次第に困難になっていった状況を展望した射程の長い論考である。

 左派、右派という枠組みの中に閉じ籠もり、かつての多様性を失って硬直化していく総合雑誌読者に対し、左右の枠組みを超えた寄稿者を織り交ぜる「編集」によって柔軟性を回復させようとしていた「諸君!」や「論座」といった雑誌は、しかし平成20年ごろに相次いで力尽き休刊となった。読者が読みたいものしか読まないのであれば、商品としてより「純度」の高い方が生き残りに強いのは自明である。こうして総合雑誌の「総合」性を担保していた「編集」は退潮し、相前後したソーシャルメディアの急速な普及も手伝って、日本の言論空間は敵味方思考による分断の度合いを強めていった。試行錯誤の末に破綻した「新潮45」休刊の顛末(てんまつ)に、武田はそうした読者の変質を見いだす。

 ターゲットを特定の狭い読者層に絞り込んだやり方は、当座の売り上げは確保できても、いずれ袋小路に陥ってしまう。そうした「分断」に適応する方向ではなく、雑誌やカフェなどの場を作ることによってあるべき読者を生成させるという「総合」志向の例として武田が挙げるのは、哲学者の東浩紀(あずま・ひろき)が主宰する批評誌ゲンロンである。近刊の9号の共同討議「現代日本の批評IV 日本思想の一五〇年」(苅部直(かるべ・ただし)・大澤聡・先崎彰容(あきなか)・東浩紀)も、近年なかなか見られなくなった濃密な座談会である。その濃密性の一因は、東が巻頭言で述べている通り、保守派とみなされる思想史家の苅部と先崎を招いたことでもたらされた緊張感にあるのだろう。

 討議は明治初年から平成までの思想史を「知識人」「文学」「天皇」の3つのテーマでたどっていく。分量は3段組みで約40ページにおよび、論点も多岐にわたるため何か結論が出るというたぐいの討議ではないが、1980年代のポストモダニズム批評の流行を境に一旦切断された日本近代思想の蓄積に対し、再び光を当てる必要があるという点で大まかな一致をみているのは興味深かった。(敬称略)

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