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【産経抄】10月28日

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 国語学者の大野晋さんが約20年前に出した『日本語練習帳』にこうあった。新聞や雑誌に使われる単語の数は年間およそ3万語とされる。その5、6割は1度しか使われない。「つまり、半分の単語は…一年に二度とお目にかかることがない」と。

 ▼大野さんは続ける。「使用度数1、あるいは一生で一度も使わないかもしれない。だからいらないのではなくて、その一回のための単語を蓄えていること」。手間を惜しまず豊かな語彙を身につけよ、と。物書きの端くれとして、自省とともに思い出す言葉である。

 ▼読書週間が始まった。毎日新聞の読書世論調査によると、書籍の「不読率」は52%で「読書率」45%を上回ったという。読み書きの能力に不足を感じると答えた人は8割を超えた。言葉の世界へといざなう本を閉じれば、言語の営みが先細りするのはやむを得まい。

 ▼表紙をひとつめくるだけで言葉との出会いがあるのに、現代人はスマートフォンの上で指を滑らせるのに忙しい。膨大な量の情報に追われ、多くの時間を奪われている。その代償として、本や新聞、雑誌のページを繰る手が疎(おろそ)かになっているなら、あまりに惜しい。

 ▼「自分の心のなかに失いたくない言葉の蓄え場所をつくりだすのが、読書です」と詩人の長田弘さんは書いた。とりわけコラムは、人の言葉に多くを負っている。小欄にとって読書とは、いつ来るか分からぬ「その一回」に備えて言葉を探し、蓄える作業でもある。

 ▼人の持ち時間には限りがあり、厚い辞書の中に埋もれた言葉たちとの出会いもおのずと限られる。長田さんは「人は言葉でできている」とも書いた。このひと言に背中を押された人は手近な朝刊を開いてくれてもいい。新聞も言葉でできている。

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