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【産経抄】10月21日

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 東京の桜田門から虎ノ門へと走る道は桜田通りと呼ばれる。戦前、通りの南側には〈明治の匂(にお)いのする古風な赤煉瓦(れんが)の建物が二つ建っていた〉と、阿川弘之さんの小説『春の城』にある。その一つが海軍省だった。

 ▼阿川さんいわく海軍はムダ、ムラ、ムリを嫌い、言葉尻を取った「ダラリ追放」の標語も掲げたという。「ジリ貧を避けようとしてドカ貧にならぬようご注意願いたい」。日米開戦前夜、海軍相の米内光政が主戦論を懸念した言葉は、同じ文脈から出たものだろう。

 ▼社会を揺らす騒動を重ねてしまう。コスト削減という時代の求めが、人員削減を招く。人手不足に陥ったモノづくりの現場が、納期順守という市場のノルマにあえぐ。じり貧を免れるため、不良品を良品と装うデータ改竄(かいざん)に手を染めたとすれば悲しい筋書きである。

 ▼油圧機器大手のKYBなどによる免震・制振装置の不正は、1千件を超す建物の信用を土台から揺らしている。建築基準法で「不適合」となるはずの免震装置は、海軍省のあった辺りに建つ中央合同庁舎第1号館・本館にも使われていた。妙な因果というほかない。

 ▼不良品のムダ、品質のムラ、現場のムリ。海軍の嫌った悪とは違う形の「悪」が、立て続けに露見する製造業の不正に通底している。日本社会をむしばむ病といえないか。となれば、禁を犯した企業にだけ責めを負わせても根治はしまい。対処に困る重い病である。

 ▼吉野弘さんは詩の一節にこう詠んだ。〈「裏」の中に「表」があります/裏を見れば表もわかるのが世の常〉と。手に取る品物、安住のよすがとする建物に寒いものを覚えるだけではない。世界に向けて日本が売ってきた「信用」という品の、値札の正味さえ疑われるのがつらい。

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