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【日曜に書く】「忘れた頃に」寺田寅彦を 論説委員・鹿間孝一

【北海道地震】道路が沈下し、建物が傾いた住宅街=6日午後、札幌市清田区(宮崎瑞穂撮影)
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 先月は台風21号、24号が相次いで襲った。

 「非常に強い」24号が接近していた9月29日の夜、突然停電した。震度7の北海道地震で道内のほぼ全域が停電した「ブラックアウト」が脳裏をよぎった。

 関西電力によると、原因は「風や雨の影響」というが、台風はまだ沖縄付近にあったから考えにくい。窓の外を見ると、どうやらわが家のマンション周辺だけのようだ。

 防災グッズが置いてあるロッカーから懐中電灯を出してつけ、停電が長引くと溶けてしまうからと、冷蔵庫のアイスクリームを食べた。20分ほどで電気は戻った。

 ◆ささやかな台風体験

 翌日は日曜で、朝のうちにベランダの鉢植えを室内に入れ、窓ガラスに粘着テープを貼った。21号の暴風はかつて経験したことがなく、ガラスが割れそうになったからだ。昼過ぎに雨が小降りになったのを見はからって、近所のスーパーに行った。午後3時で閉店という貼り紙があり、飲料水やカップ麺などは残り少ない。弁当や総菜が半額になっており、調理に火を使わなくてもいいので、あれこれ買い込んだ。

 夜になって、避難準備を呼びかけるスマホの緊急速報メールの着信音がけたたましく鳴った。急に風雨が強くなった。

 気象台を担当していたこともあり、以前は台風だからと休むわけにはいかなかった。「台風が来て、家にいるのは初めてじゃない」と妻が言った。

 向田邦子さんの「傷だらけの茄子(なす)」は幼い頃の台風体験を題材にしたエッセーである。

 「台風がくるというと、昔はどうしてあんなに張り切ったのだろう」

 学校から帰ると、祖母や母がごはん支度をしている。気負い込んでいるのは「早いところ炊きあげ、おかずもつくって、台風がこない前に、かまどの火を引いてしまいたいのである」。そこに父が帰宅する。

 「晩のおかずはなんだ。火を使うものはよせ。鮭カンと牛肉の大和煮があったろ。あれ、切りなさい」。耳ざとく聞きつけた子供たちが、めったに食べさせてもらえない缶詰が食べられると歓声を上げる。

 「兄弟げんかも、夫婦げんかも、母と祖母のちょっとした気まずさも、台風の夜だけは、休戦になった。一家をあげて固まっていた。そこが、なんだかひどく嬉しかった」

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