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【産経抄】9月30日

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 神奈川県のある市役所で係長を「チーフ」と呼ぶことになった。20年ほど前である。世評はあまり芳しくなかった。「いつからレストランになったんだ」。非難が殺到したとの挿話を、井上ひさしさんが『にほん語観察ノート』に書き留めている。

 ▼今思えば、さほどに騒ぐことでもない。コンビニエンスストアよりコンビニが耳になじみ、アニメーションを縮めたアニメは「日本製の動画」を指す言葉として、英語の辞書にも載っている。「日本語は胃袋が強い」と書いたのは、英文学者の柳瀬尚紀さんだった。

 ▼右手に箸、左手にフォークのおおらかさは日本語の美質として、世界から千客万来の東京五輪が近いせいか、お役所の外来語だのみには見境がない。訪日外国人旅行を指す「インバウンド」や共同事業体を表す「コンソーシアム」に、かゆみを覚えた人は多かろう。

 ▼官公庁が使うカタカナ語に、「分からない」と答えた人が5割を超えた。国語に関する世論調査の結果である。意見公募で済むものを、「パブリックコメント」に言い換える手間は惜しまないらしい。略語の「パブコメ」を訳知り顔で使う鼻持ちならぬ官僚も多い。

 ▼徳川夢声は終戦直後の日記に書いた。「床の間が無くても生きては行けよう、だがそれでは吾々(われわれ)が考えている日本人の生活ではない」。日本人のアイデンティティー(同一性)と書かれるより腹に落ちる。日本語を端的に使いこなす方が、社会も滑らかに回ろうに。

 ▼いかに時代が流れても、ろくな身体検査もせずに舶来の言葉を受け入れるのは考えものである。何が必要で何が不要か。消化薬を飲みカタカナ語を整理する時期だろう。日本語の胃袋は強くても、このままではこちらの記憶の引き出しがもたない。

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