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【産経抄】9月23日

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 ドイツの哲学者、ヘーゲルの『法の哲学』に知られた一節がある。〈ミネルバのフクロウは黄昏(たそがれ)に飛び立つ〉。一つの時代が終わりを迎えるとき、知性を司(つかさど)る女神ミネルバは、化身のフクロウを空に放つ。その時代を俯瞰(ふかん)し、歴史の総括から得た教訓を次代に伝えるためだという。

 ▼古代史に残るサラミスの海戦(紀元前480年)では、劣勢のアテネ軍が旗艦のマストに止まったフクロウを見て奮い立ち、ペルシャ軍を破った。かの鳥が戦の成り行きを見通していたかは定かでないが、知性の化身が勝利をもたらした点で示唆に富む挿話だろう。

 ▼人類の知的欲求も今では歴史を飛び越え、壮大な宇宙へ向かっている。小惑星リュウグウに到達した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が、地表で活動するロボットを投下した。その名を「ミネルバ」という。知性の女神が援軍とは心強い。

 ▼リュウグウには有機物や水を含む岩石があるとみられ、生命の起源が詰まった「缶詰」とも呼ばれる。重力が地球の8万分の1しかない星の地表を、ミネルバは跳びはねて観測する。大小の岩で覆われる地表には、十分な足場もない。見通しの利かぬ難行軍である。

 ▼知性を磨き続けた人類は、数十億年もの時間をさかのぼり、太陽系の起源という謎に理論的な答えを出した。必要なのは物証による裏付けである。直径1キロ足らずの天体に手がかりはあるのか。黄昏時のない宇宙に自ら飛び立つミネルバに、証人となってもらおう。

 ▼はやぶさ2はリュウグウの地表から砂などの物質を採集し、およそ2年後に地球に帰還する。鳥の目で小惑星の全てを見尽くした知性の女神は、そのとき、われわれ人類にどんな答えをささやいてくれるのだろう。

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