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【正論】古代の回顧を精神再興の礎に 文芸批評家・都留文科大学教授・新保祐司

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 ≪なぜ日本人に空虚感が広がるか

 猛暑の昼下がり、明石海峡大橋を渡る。眼下に「速吸門」が見える。白波が海峡らしくところどころに立っている。観光船らしきものが航行していたが、進みにくそうに漂っていた。モーターボートが1隻、速いスピードで進んでいく。長く真っすぐに引かれた白い水脈が美しい。

 神武天皇の東征の船団が、どのようなものであったかは想像するしかないのだが、宗像大社の秋季大祭での海上神幸「みあれ祭」が思い浮かぶ。この祭りの様子をテレビで見たことがあるが、約200隻の漁船群が大漁旗をはためかせて玄界灘を勇壮に突き進んでいく光景には、明石海峡を神武天皇の船団が東征していく古代の歴史的場面を連想させた。もちろん、速度や船の大きさは随分違うわけだが、その勇壮さにおいて彷彿(ほうふつ)させるものがあった。

 島では、まず伊弉諾(いざなぎ)神宮を参拝した。この辺りが、伊弉諾尊の幽宮(かくりのみや)とされているところである。売店の2階の休憩室で冷えたラムネを飲みながら、日本の古代に思いをはせることの大切さを思った。 壁に貼られているポスターに、2年後の西暦2020年には『日本書紀』編纂(へんさん)1300年の記念すべき年が来ると書かれていた。これを機に日本の古代についての関心が深まり、日本人の人生が自分の人生の時間にとどまるものではなく、古代からの日本人全体の悠久の歴史につながるものであるという意識が高まることが期待される。今、日本人の心に広がる空虚感は、歴史との断絶に由来しているように思われるからである。

 何十年ぶりかに飲んだ懐かしいラムネの味は、回顧の気分に浸らせた。『古事記』の中の「汝は海道を知れりや」「能く知れり」という直截なやりとりが、交声曲「海道東征」の質朴な旋律に乗って聴こえて来るようであった。

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