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【産経抄】8月16日

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 「東京でも以前はよく子供がいなくなった」。迷子や神隠しに関心を寄せていた日本の民俗学の創始者、柳田国男は、『山の人生』でこう書いている。「この場合には町内の衆が、各一個の提灯(ちょうちん)を携えて集まり来たり、夜どおし大声で喚(よ)んで歩くのが、義理でもありまた慣例でもあった」。

 ▼山口県周防(すおう)大島町で行方不明になっていた藤本理稀(よしき)くん(2)が、15日朝、ボランティアの男性に保護された。男性が名前を呼んで山中を捜索していると、「ぼく、ここ」と返事をした。母親の実家に遊びに来ていた理稀くんは、3日前の朝、1人で家の方向に歩いている姿が目撃されたのを最後に、安否がわからなくなっていた。

 ▼「よっちゃん、よっちゃん、みんな待ってるから出ておいで」。無事を祈る母親は、防災無線を使って何度も呼びかけた。理稀くんの耳に届いていたのだろうか。何より生命力の強さに驚いた。3日間、昼間の気温は30度を超えていた。幼い子供がたった1人食べ物もないまま、どのように命をつないでいたのだろう。

 ▼建築史家の藤森照信さんは子供の頃、故郷の長野県の山中で不思議な体験をしている。道に迷って、水たまりのまわりに花が咲いている、きれいな場所に出た。いい気持ちになってしゃがみこんだ。

 ▼ただこのままいたら、家に帰れなくなるという気がしてきて、逃げるように立ち去った。大人になって柳田の著作を読み、自分が神隠しの入り口に立っていたと、納得したという。柳田自身、何度も神隠しに遭いかけたエピソードをつづっている。

 ▼理稀くんも神隠しの入り口に立ち、そこから見事脱出に成功したのかもしれない。エネルギーのもとは、ママに会いたいその一心であろう。本当によくがんばった。

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