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【正論】歴史と文学に憧れの人はいるか 大阪大学名誉教授・猪木武徳

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 意外に思った遠藤は、「君は、その17世紀のフランス古典文学が現在の君を支えると思うか」と問い返すと、フランスの青年には、17世紀からの、伝統的な人間タイプは郷愁なのですよ。特に現在のように、人間が分裂してしまっているときには、それは一つの郷愁になるのですと言うのだ。

 この答えによって、遠藤はフランス人の間には、一つの理想的人間のタイプが長い文学伝統に存在し、そこから夢やヒューマニズムを養っているのだということに気づくのである。

 ≪「郷愁」を考えさせる機会がない

 では日本はどうかと遠藤は自問する。自分たちの世代にはそういう理想的人間がどこを探しても見当たらない。だから否定の連続ばかりで、肯定ということがなかなかできないのではないか。

 筆者には、この何気ない会話の中に、日本の教育が抱えもつ問題の一端が示されているように思われる。遠藤の感慨は、より強く現代のわれわれにも当てはまるのではないか。

 「個性」の誇示が推奨されたとしても、「個性」がなぜ求められ尊重されねばならないのかを語ることはない。初等、中等、高等教育すべての段階を含む、まさに教育そのものの中に存在すべき「郷愁」「憧れ」といったものの意味を考えさせてくれる機会はほとんどないのだ。

 この点に関して、20年ほど前、米国から筆者の勤務する大学に移ってこられた先生に薦められて読んだ内村鑑三の『代表的日本人』が思い出される。

 西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人の5人の日本人の人物論である。国際感覚を持つナショナリスト内村が英語で書いた同書を、米国生活の長かったわたしの同僚の先生も、おそらく遠藤周作と同じような気持ちで読まれたのではなかろうか。

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