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【養老先生のさかさま人間学】情…人々の心に向かう言葉

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【養老先生のさかさま人間学】
情…人々の心に向かう言葉

 「情(じょう)」という文字(もじ)は、良(よ)い意味(いみ)で使(つか)うことが多(おお)いと思(おも)います。友(ゆう)情とか旅(りょ)情、情熱(ねつ)、情感(かん)などなど。これは日本(にほん)というか、東洋文化(とうようぶんか)の特徴(とくちょう)かもしれません。

 「情理(り)をつくす」という言葉(ことば)があります。相手(あいて)の気持(きも)ちを考(かんが)え、さらに理にかなうようにすることです。情が理より先(さき)にくるんですね。日本語(ご)は感から情、つまり感覚(かく)から心(こころ)へと向(む)かう言葉が多い気がしませんか。

 反対(はんたい)に、西(せい)洋では理の方(ほう)を重(おも)くみるような気がする。実際(じっさい)、英(えい)語には、感情に関(かん)する言葉が少(すく)ないように思えます。

 様子(ようす)を伝(つた)える日本語の中(なか)で、雨(あめ)がふるときに使う「しとしと」はどうでしょう。何(なん)となく、情がこもっているように感じます。「雨がしとしとふる」をぴったりの英語に訳(やく)せといってもちょっと無理(むり)のような気がします。わたしは英語にくわしいわけでもないので、専門家(せんもんか)の意見(いけん)を聞(き)いてみたいですが。

 もちろん日本語もいろいろです。今(いま)わたしの目(め)の前(まえ)に飼(か)い猫(ねこ)のまるがいますが、猫を指(さ)す「ニャンニャン」はどうか。「しとしと」みたいに、同(おな)じ音(おと)をくり返(かえ)す表現(ひょうげん)ですが、こちらは鳴(な)き声(ごえ)をまねているだけで人(ひと)の情が入(はい)っていないようです。

 「つくづく」はどうですか。わたしは情が入る気がします。英語が母(ぼ)語の人でも「つくづく思う」ことはあると思いますが、ぴったりの表現がありますかね。訳すには、ニュアンスのどこかを切(き)りすてて言(い)いかえるしかないかもしれません。

 これはデジタル、つまりコンピューターの世界(せかい)とにています。デジタルに情感はない。いずれコンピューターが「しみじみ思う」ようになるんでしょうか。(解剖学者(かいぼうがくしゃ)、養老孟司(ようろう・たけし))

                   

【用語解説】デジタル

 文字、音声(おんせい)、写真(しゃしん)など、さまざまなものを数字(すうじ)に置(お)きかえて表(あらわ)す方法(ほうほう)。アナログの反対(はんたい)語。時計(とけい)を例(れい)にすると、デジタル時計は数字で、アナログ時計は針(はり)で時間(じかん)を表す。デジタルは数(かず)を見(み)やすいが、ある数と次(つぎ)の数の間(あいだ)の細(こま)かい部分(ぶぶん)は表せない。このため、人の感情などのあいまいなものは表しにくい、との見方(みかた)もある。

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