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【産経抄】5月24日

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 1972年9月、日中国交正常化のために訪中していた田中角栄首相の一行はある夜、毛沢東主席の私邸に招かれた。「(周恩来首相との)ケンカは済みましたか」。日中首脳会談をケンカにたとえる言葉で始まった会見は、なごやかに進んだ。

 ▼別れ際、毛主席は田中首相に「楚辞集注」を贈った。中国古代の憂国詩人、屈原らの作品を集めた『楚辞』に注釈を付けたものだ。理由についてさまざまな説がある。その一つは「迷惑」の語源を示した、というものだ。

 ▼「わが国が中国国民に多大なご迷惑をおかけした」。歓迎夕食会での田中首相のスピーチに、中国側が猛反発する場面があった。田中首相は帰国後、中国の古典をまとめた『新釈漢文大系』で調べたという。「迷惑」については、こんな記述が見つかった。

 ▼「慷慨(こうがい)して絶(た)たんとして得(え)ず、中●乱(ちゅうぼうらん)して迷惑(めいわく)す」。迷惑は中国では、単に「迷い惑う」の意味だった。反省する時に使う言葉ではない、と毛主席は言いたかったのか。中国の指導者の真意を忖度(そんたく)するには、やはり『新釈漢文大系』は欠かせない。ちなみに「忖度」は、中国最古の詩集『詩経』に「他人心有(たにんこころあ)れば 予之(われこれ)を忖度す」として登場する。

 ▼昭和35年に刊行が始まった『新釈漢文大系』は、58年かけて今月、全120巻(別冊1巻)がついに完結した。版元の明治書院は、漢文学や国語教育の専門出版社である。執筆にかかわった漢文学者の大半はすでに亡くなっている。気が遠くなるような壮大な刊行事業といえる。

 ▼最近とみに国語力の低下が指摘される政治家の皆さんには、ぜひ手に取っていただきたいものだ。ちなみに国会議事堂内の書店の店主によれば、中曽根康弘元首相が全巻買いそろえている。

●=矛の右に攵、下に目

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