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【正論】地政学だけで日中韓を考えるな 双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦

双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦氏
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 □双日総合研究所 チーフエコノミスト・吉崎達彦

 「環日本海・東アジア諸国図」、通称「逆さ地図」というものがある。日本周辺の世界地図を南北でひっくり返したものだ。国土地理院の承認を得て、富山県土木部が1部300円で発行している。この地図を見ていると、北東アジアの中心が富山県沖の日本海にあるように見えてくる。こういう逆転の発想をしたくなる気持ちは、北陸の富山県出身者である筆者にはよくわかる。

 ≪やっかいな北東アジアの地図≫

 ところで、この「逆さ地図」には別の使い道もある。ユーラシア大陸の側から、つまり「下から目線」で日本列島を見上げてみると、何とも邪魔な存在であることに気がつくのである。

 中国にとっては、海軍が太平洋に進出しようとすると、目の前を塞ぐように南西諸島が並んでいる。ご丁寧なことに台湾諸島までつながっている。しかもこの「第1列島線」の手前は水深が浅い。潜水艦を忍ばせても、今日の軍事技術では丸見えになってしまう。人民解放軍の幹部たちが、「日本列島さえなかりせば…」と考えたとしても不思議はあるまい。

 韓国から見ると、すぐ目の前に自国の3・8倍の面積を持つ国が広がっている。加えて人口でも経済規模でも倍以上と来ている。しかも産業構造などで「キャラのかぶる」相手でもある。慰安婦問題など持ち出すまでもなく、目障りな存在であるに違いない。

 最近はしばしば「地政学の復活」が指摘されている。つまり国家にとって「地理」は重要であり、そのことは人間の力では変えられない。ゆえに各国の「戦略」はぶつかり合う。軍人や外交官などが地図を片手に戦争に勝つ方法を考える、というのが20世紀前半にはやった地政学であった。冷戦終了後は、とっくに「お蔵入り」となっていた学問である。

 ところが、あらためて地政学的な視点で北東アジアを見ると、なるほどこれはやっかいである。仮に領土や歴史認識の問題がなかったとしても、日中韓3カ国は相互に牽制(けんせい)し合うような微妙な関係になっていたことだろう。

 ≪ふぞろいだが意外な共通点も≫

 9日に東京で日中韓首脳会談が行われる。中国からは李克強首相が公賓として訪日し、今回は北海道にも滞在する。日中の首脳交流は6年ぶりとなる。韓国からは「時の人」文在寅大統領がやってくる。北朝鮮問題にどこまで踏み込めるかは未知数だが、南北首脳会談がどんなふうであったか聞いてみたいところだ。

 日中韓3カ国の会談はもともと、東南アジア諸国連合(ASEAN)+3からスピンアウトして誕生した。2008年12月に第1回会合を太宰府で開催し、以後は毎年持ち回りとなった。国際金融危機が深刻化していた時期だけに、アジアにおける日中韓の協議は重要だったのである。

 しかし12年に李明博・韓国大統領の竹島上陸、尖閣国有化とそれをめぐり中国で反日デモなどが起きると、日中韓の相互交流は途絶えがちになる。15年11月に第6回会合がソウルで開かれた後は、空白期間が続いていた。

 日中韓は地政学的にはライバルであるし、国力の面から言っても多分にふぞろいな組み合わせである。それでも、経済面では協力できることが少なくない。というのも意外な共通点があるからだ。

 この3カ国は世界史的にも稀有(けう)な高度成長を体験している。かつては被援助国であったが、今は援助する側に回っている。経済成長の原動力は貿易と投資であり、このところ流行の保護貿易主義はちと具合が悪い。

 ≪経済での一致に意義がある≫

 日中韓は20カ国・地域(G20)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)、東アジアサミットなどのメンバー国でもある。自由貿易協定(FTA)交渉も進行中だ。面白いことに、日本は対韓国で貿易黒字、韓国は対中国で黒字、そして中国は対日本で黒字という「ジャンケンポン」体制にある。こういう3カ国が一致できる問題は、アジアで強い説得力を持つ。

 最近の明るい話題は、国境を越える観光客の増加である。昨年の訪日外国人客数は、中国から735万人、韓国から714万人となり、それぞれ全体2869万人の4分の1ずつを占めている。相手の国を直接知る人が増えれば、それだけ誤解は減るだろう。

 国家間に地政学的な対立があることは、必ずしも衝突を意味するものではない。近年の日中関係では「日中友好」というウエットな言葉ではなく、「戦略的互恵関係」というドライな言葉が使われている。思い切って意訳すると、「お互いに分かり合えないところはあるかもしれませんが、可能な分野はウィンウィンで行きましょう」といったところであろう。

 幸いなことに、経済活動はゼロサムゲームではなく、お互いに利益を得ることができる。領土や歴史認識などの困難な問題があるからこそ、経済で日中韓が一致することには意義があると考えるべきだろう。くれぐれも地政学を運命決定論にしてはならない。(双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦 よしざきたつひこ)

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