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【日曜に書く】“新緑の使者”を守りたい 論説委員・山上直子 

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 「えっ、冬虫夏草もみられるんですか?」。植物719種、うち樹木は141種、キノコ418種に野鳥121種、チョウは60種、トンボ42種、セミ8種-。京都市上京区の京都御苑でこれまでに確認された数と聞いて驚いた。漢方薬で知られる冬虫夏草はキノコの一種だ。

 一般には「御所」といった方が通りがいいかもしれない。正確には江戸時代まで皇居だった京都御所の外苑で約65ヘクタール、甲子園球場の約16倍もある緑地だ。その中に京都御所や上皇の住まいだった仙洞(せんとう)御所、新設の京都迎賓館などがあり、京都の人はその全体約92ヘクタールを、親しみと旧都の矜持(きょうじ)を込めて御所と呼ぶ。

◆知られざる豊かな自然

 訳あって、御苑の草花の写真を撮っている。訪ねたのは御苑内にある環境省京都御苑管理事務所の庭園科長、中西甚五郎さん。話を聞いて目を見張ったのが、知られざる御苑の豊かな自然だった。その背景を知るにはやはり、歴史からひもとかなくてはならない。

 江戸時代、御所は周囲に多くの公家屋敷が並び立つ公家町の中心だった。当時から周辺は京都観光の目玉の一つで、観光客は門前の茶屋で公家らが参内(さんだい)するのを見物したという。

 ところが150年前、明治維新が起きる。明治天皇に伴って公家らも東京に移り、市内の一等地が突然、空き家だらけになった。活気を取り戻そうと京都博覧会が開かれ、御所がその会場になったこともある。

 明治10年、久しぶりに故郷を訪れた明治天皇はその荒廃を嘆き、御所保存と旧観維持の沙汰を下した。それを受けて始まったのが京都府の保存事業だ。公家屋敷を取り壊し苑地を整備して、市民に公開した。戦後には東京の皇居外苑、新宿御苑とともに国民公園となる。

 「京都近郊の里山と似た自然がここにあります。まさに“市中のオアシス”ですね。御所の風致維持が目的ですから、あまり手を入れすぎない。普通の都市公園とはかなり違うと思います」という中西さん。

 テニスコートや運動広場もあり、弁当持参で訪れる市民もいる。梅林、桃林のほか桜が美しい「出水の小川」も人気で、知る人ぞ知る花見スポットだ。最近は京都御所や迎賓館が通年公開されて観光客も多いが、本来の姿は市民の憩いの場なのだ。

◆アオバズクの子育て

 それゆえの楽しみと課題もある。御苑で観察できる野鳥といえば、鵺(ぬえ)伝説の正体とされるトラツグミ、五位の位を与えられたと「平家物語」に描かれるゴイサギ、アオバト、ビンズイなどが代表的だ。近くの鴨川から飛来する鳥も多く、体長1メートル近いアオサギが悠々と歩いていてびっくりすることもある。

 中でも人気者なのが、もうすぐ大陸からやってくるフクロウ科の夏鳥、アオバズクだ。丸い目が愛らしい渡り鳥で、府のレッドデータブックでは準絶滅危惧種に指定されている。昆虫や小動物を好んで食べることから、御苑の自然環境が豊かであることの象徴的存在なのだ。

 先週、年に4回開かれている「自然教室」に参加した。植物、野鳥など専門家の解説で散策する人気イベントである。

◆青葉とともに

 京都自然観察学習会講師の西台律子さんによると、アオバズクは4月下旬頃に飛来し、営巣して卵を産み6~7月に子育てをする。ヒナの巣立ちは7月下旬以降だが、以前巣から落ちる事故が続いたことがあった。

 当初はカメラのストロボが原因と考えられたが、その後、見学者の多さや声に反応して親鳥が発する警戒音に、ヒナが驚いて落ちたことが分かったそうだ。以来、保護策を講じているが、近年さらにアマチュアカメラマンが増えている。訪日外国人も多く、御苑で許可なく小型無人機ドローンを飛ばすトラブルもあった。今後もさらなるルールの徹底と啓蒙(けいもう)が必須だろう。

 かつて御苑では、人間の出す高カロリーのゴミがカラスの産卵を増やし、ゴミ箱を撤去したら個体数が減ってバランスを取り戻したという。都市には同様の問題が多いが、生態を知った上で人間の努力も必要だ。「カラスに邪魔者という汚名を着せたのは人間です」という西台さんの言葉に考えさせられた。

 アオバズクは漢字で「青葉梟(あおばずく)」と書く。青葉の頃に来て鳴き始めることから付いた名で、まさしく新緑の使者だ。連休や「葵祭」に京都を訪れる人も多いだろう。安心して子育てができるよう、ぜひ自然の営みにも心を致してほしい。(やまがみ なおこ)

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