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【海峡を越えて 「朝のくに」ものがたり】(15)私が会った孫基禎 「過去」よりも「未来」が大事

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 私は「日章旗抹消事件」の話を聞きたかった。事件後、“危険人物”として日本の公安当局からつきまとわれたとも聞く。自伝では、金メダルに輝いたときでさえ、亡国民の悲哀に涙したとつづられている。

 だが、孫は多くを語ろうとしない。過去はのみ込んで「そりゃ、つらかったし、いろいろあったさ」とだけ話したかと思うと、孫は大きな手で私と韓国人通訳の手を包み込んだ。

 そして、「そんな昔の話よりも、もっと大事なことがあるじゃないか。(日韓の)未来は君たちのような若者たちにかかっているのだぞ」と力を込めた。手の温かさと驚きを今もはっきり覚えている。

 別れ際に私と韓国人青年の通訳の2人にそろいのサイン入り記念品をくれた。そこにはベルリン五輪で優勝し、ゴールテープを切ったときの有名な写真をプリントしてあった。

 それから数日…。大観衆で埋まったメインスタジアムに、聖火を掲げて登場した孫は、事前の予想を裏切り、“ラス前(最終ランナーの前)”という役割だった。組織委員会が、日本統治時代の選手にスポットライトが集まるのを嫌ったとも言われている。

 それでも、ソウル五輪のシンボルマークを胸にして、ピョンピョンと跳びはねるようにトラックを駆けた孫の表情は、とてもうれしそうだった。

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