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【正論】検証可能な北の核廃棄が鍵だ モラロジー研究所教授・麗澤大学客員教授・西岡力

西岡力氏
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 ≪功を奏した経済制裁と軍事圧力≫

 金正恩朝鮮労働党委員長がトランプ米大統領に会談を申し込み、大統領がそれを受けた。経済制裁と軍事圧力の効果と言ってよい。私は昨年9月12日本欄でこの展開を予想してこう書いた。

 〈トランプ大統領は米国本土まで届く核ミサイルを持たせた大統領として、汚名を残すことは絶対に避けたいはずだ。対北経済封鎖措置を徹底し、それでも金正恩氏が核ミサイルを放棄しなければ、軍事行動、すなわち金正恩氏を除去する「斬首作戦」の準備を進めるはずだ。独裁者は命が危ないと判断したときだけ譲歩する。戦争直前までいけば北朝鮮は必ず中身のある協議に応じてくる(しかし、そこでも彼らはウソをつく)。〉

 ここで金正恩氏を追い込んだ2つの要素、(1)経済制裁と(2)軍事圧迫について概観しよう。

 (1)制裁前の2016年、北朝鮮は石炭、鉄鉱石、水産物などの輸出で合計28億ドルの外貨を得ていた。昨年の国連安保理制裁でその9割、25億ドル相当の輸出品目が禁輸となった。制裁前に北朝鮮は石油精製品(ガソリンやディーゼル油など)を年間60万トン、原油を年間50万トン輸入していた。制裁決議でそのうち石油精製品の9割、53万トンを失った。これは軍の通常戦力さえ維持できない水準だ。特筆すべきは、北朝鮮の貿易の9割の相手国である中国が制裁決議を履行していることだ。中朝関係はかつてないほど悪化している。

 (2)軍事圧迫も強化され、金正恩氏が命の危険を感じはじめた。世界最強といわれる米空軍の戦略爆撃機B1Bが昨年1年間で23回、グアム基地から半島周辺に飛来した。金正恩氏は、米国は自分を暗殺する作戦を準備していると判断し、おびえている。

 トランプ政権は、国務長官を融和派とされたティラーソン氏から強硬派とされるポンペオ氏に代え軍事圧力を維持強化している。

 ≪金氏が目指すベトナム型統一≫

 一方、金正恩氏は(3)核ミサイルと(4)“親北化”する韓国の2つの要素に希望をかけている。

 (3)核ミサイル開発は完成直前まできた。北朝鮮はこの2年間で3回の核実験と40発の弾道ミサイル発射を行い、昨年11月29日、火星15ミサイル試射を受け、金正恩氏は「国家核武力完成」を宣言した。しかし、さまざまな情報から米本土まで届く核ミサイルは完成直前まで来たが、まだ完成はしていない、と判断できる。「完成」キャンペーンを続けたのは、米国に軍事攻撃の口実を与えないことを優先したからだ。

 (4)韓国の北朝鮮専門家は「主体思想派が青瓦台(大統領府)をはじめすべての機関を掌握したので、北朝鮮はこの機会にベトナム型統一をしよう、と考えて今年に入り大々的な外交攻勢をかけてきたと判断できる。文在寅政権が目指す6月の憲法改正もそれに連動している」と語った。

 本当に韓国が金正恩氏を助けるかは分からない。1980年代に親北革命運動に従事した運動家が多数、青瓦台に布陣していることは事実だ。韓国保守派によると、大統領秘書室の秘書官以上幹部31人のうちほぼ半分の15人(室長1、首席秘書官2、秘書官12)が活動家出身だ。

 では、ベトナム型統一とは何を意味しているのか。北ベトナムは米国と戦争を終わらせるためという名目でパリ協定を結び、米軍を撤退させた。その数年後、北ベトナム軍が大挙南下し共産統一が実現した。それにならって、金正恩氏も休戦協定を平和協定に変えて、米軍撤退を実現させたいと考えているはずだ。米軍が撤退すれば、文在寅政権と話し合って、2000年6月に金正日と金大中が事実上合意し、文大統領がその実現を公約としてきた連邦制での統一を行う-というシナリオだ。

 ≪首相訪米は拉致問題の分水嶺に≫

 金正恩氏はトランプ大統領との取引で、「米国まで届く核ミサイルの廃棄」というカードを切り、その見返りとして「米朝平和条約締結と米軍撤退」を求めてくる可能性がある。文政権はこの取引に賛成するかもしれない。トランプ政権も朝鮮半島の自由化のために米軍を使う意思はないから、取引に乗る危険性がある。ただ、核ミサイル廃棄を検証できるのかという大きな問題がある。また、金正恩政権が、唯一の業績である核ミサイルの廃棄を北朝鮮内部で公開できるのかという問題もある。

 わが国としては、トランプ政権に核ミサイルの完全廃棄要求を下げるなと、求め続けなければならない。リビアが核廃棄をしたときには検証のため米英情報機関員が核関連施設と関連書類を査察した。同じことが不可欠だと主張し続けることだ。

 また、拉致被害者の全員帰国なしには圧力を緩めるべきでないと念を押し続けなければならない。その意味で4月初めの安倍晋三首相訪米は日本の安保と拉致被害者救出にとって分水嶺(れい)となるような重大な意味を持つ。わが国の国益を最大限に実現すべく官民挙げて必死の努力を払う正念場だ。(モラロジー研究所教授・麗澤大学客員教授・西岡力 にしおか つとむ)

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