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【正論】思い出を育てて生きる大切さ 哲学者・京都大学名誉教授・加藤尚武

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≪沈黙の中に込められた思い≫

 日本人の心の中には、帰ることのない身内の人の思い出は、それが悲しみを引き起こすことがあっても、その思い出をいつまでも蘇(よみがえ)らせながら、その思い出のもたらす苦しみが和らいでいくなりゆきを、静かに受け止めるという心情があるに違いない。いわば思い出を育てて生きる。

 思い出はどうしても時とともに薄らいでいく。はっきりと記憶していて忘れるはずがないと思われたものも、確かにいつしか忘れている。たとえば故人となった人の最後の時に着ていた衣服の模様をいつしか忘れている。

 細かい事実の思い出が消えて、純粋な印象に変質していく。「優しい人だった」というような簡単な言葉でしか表せないようになっても、「優しい人だった」という印象は確かなものとなり、消えることのないものとなっていく。

 東日本大震災で被災した人の姿をテレビで見た石牟礼道子さんは、「沈黙のなかに、たくさんの思いが込められているように感じました。決して多くは語られませんが、語られないことのなかに、人間の絆がいっぱい詰まっているように思いました」(『災害と文明』潮出版社)と語っている。愛したこと、憎んだこと、なんでもない日常の触れあい、結婚式や卒業式の思い出、それぞれが色合いの違う人間の絆である。

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