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【日の蔭りの中で】西部邁さんの不動の精神 保守主義の根底にモラリズム 京都大学名誉教授・佐伯啓思

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【日の蔭りの中で】
西部邁さんの不動の精神 保守主義の根底にモラリズム 京都大学名誉教授・佐伯啓思

講演する西部邁さん=2010年3月29日、奈良市(前川純一郎撮影) 講演する西部邁さん=2010年3月29日、奈良市(前川純一郎撮影)

 この社交の場で、西部さんが最も大事にしたのは、言葉であり、誠実さであり、礼節であり、勇気であった。どんなにくだけた酒場の社交においても西部さんは常に真剣な会話を求めたし、ご本人もそれに徹しておられた。逆に、西部さんが最も嫌ったのは、無礼であり、虚飾であり、独善的な自己陶酔であり、不誠実な物言いであった。

 この基本的な態度は死の直前まで全く変わることはなかった。西部さんの保守主義とはこの種の精神の産物であり、この種のモラリズムを根底に持つものなのである。だから彼はことさら言葉遣いには敏感であり、楽しくも意味のある会話こそが保守の神髄だと考えていた。なぜなら言葉こそは伝統そのものであり、まともな言論とはそこに伏在するコモンセンスからしか出てこないからである。

 西部さんの極めて厳しい大衆社会批判も、煎じ詰めれば、それが意味ある会話という伝統を破壊するからであり、またその知識人批判も、知識人こそが、言葉と論理に対して誠実であること、つまり伝統を大切にするはずの存在だったからである。

 私がお会いしたときから、西部さんは不動の人であり、確固たる人であった。しかし、時代は大きく変わりゆく。もうすぐ平成も終わる。西部さんは戦中の生まれである。このような真の知識人を今日の日本が生み出すとはもう思えない。私のような平凡な人間には、ささやかながら、西部さんの意を次の世代に伝えることしかできないが、それで多少なりとも故人の恩義に報えればと思う。(さえき けいし)

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