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【国語逍遥(93)】創作漢字 「バーチャル」を漢字一文字にするならば… 清湖口敏

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【国語逍遥(93)】
創作漢字 「バーチャル」を漢字一文字にするならば… 清湖口敏

 日本人は古来、畑や辻、峠、笹といった和製漢字(国字)を数多く創ってきた。なかでも際立って多いのが魚偏の国字で、海洋国の日本では魚の種別を表すにも大陸生まれの漢字だけでは用をなさなかった。

 現代医学に欠かせない膵(すい)臓(ぞう)の「膵」や汗腺の「腺」も国字である。漢方医学では五臓六(ろっ)腑(ぷ)説に膵臓や腺の概念がなかったため、オランダの医書に出てくるこれらの器官や組織を表す漢字が存在しなかった。そこで蘭医の宇田川玄真は両字を案出し、『医範提綱』で用いた。文化2(1805)年のことである。

 むろん単なる思いつきやデタラメではなく、偏旁(へんぼう)のルールをちゃんと踏まえている。さまざまな分泌物が泉のごとく湧くところから「泉」を旁(つくり)とし、体の組織を示す肉月(にくづき)を偏としたのが腺である。膵と腺は蘭学者の間に普及し、明治以降に医学用語として定着した。わずか200年ほど前に新製された腺は今、常用漢字になっている。

 先人が数々の国字を創り出さなかったら、現代人はどれほど不便をかこつことだろう。だから私たちも好き勝手に新しい字を創り、使えというのでは、決してない。漢字という表意の文字体系にそなわる優れた造字・造語力を大切にしたいと思うだけである。

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