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【正論】長寿社会が変える「生」の意味 新たな「苦難」とのであい 社会学者、関西大学東京センター長・竹内洋

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【正論】
長寿社会が変える「生」の意味 新たな「苦難」とのであい 社会学者、関西大学東京センター長・竹内洋

社会学者で関西大学東京センター長の竹内洋氏(栗橋隆悦撮影) 社会学者で関西大学東京センター長の竹内洋氏(栗橋隆悦撮影)

 ≪生き続けなければならない苦難≫

 この会話は、小説の最後、猫がビールを飲んで酩酊(めいてい)し、陶然としながら甕(かめ)の中で溺死していくという緩慢な自殺の伏線でもある。

 だが、『吾輩は猫である』を読んだことがある人でもこの部分について言及すると、そんなところあったかなという人が多い。本筋とはずれた部分ということもあるが、圧倒的に死の恐怖が覆う時代だったときには、この架空話が荒唐無稽に思え、記憶に残らなかったのかもしれない。しかし、今の時代に読めば、決して架空話ではなく、妙にリアルに迫ってくるはず。

 不死が到来しなくともどんどん寿命が延び、それこそ平均寿命が125歳になる可能性は考えられないことではない。そうなったとき、人々はとっくに生に倦(う)んでしまいながら、生き続けなければならないという苦難にであうかもしれない。長寿社会の今すでにその兆しがみえている。

 同時に人々は死の恐怖の時代をノスタルジックに振り返るかもしれない。死の影が生に寄り添っているからこそ、限りある生を意味のあるものにしたいという思いがでてきたというように。

 「死ぬ事は苦しい、しかし死ぬ事が出来なければなお苦しい」と漱石は書いている。(関西大学東京センター長・竹内洋 たけうち よう)

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