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【産経抄】日本は睡眠研究で世界をリードする 11月7日

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【産経抄】
日本は睡眠研究で世界をリードする 11月7日

 世界中を旅してきた作家の椎名誠さんが、カンボジアの虐殺博物館を訪ねた時のことだ。拷問に使われた木の椅子が目に留まった。人がその椅子に座って背もたれに縛られると、頭の上からポツリポツリと絶え間なく水滴が落ちてくる。これをやられると、人はまったく寝られなくなるそうだ。

 ▼椎名さんの記憶に強く残ったのは、自身が35年以上にわたって不眠症に苦しんできたからだろう。椎名さんを羽交い締めにする「不眠大王」は、四方八方に「不眠の魔の罠(わな)」を張り巡らせてきた。睡眠薬から落語のCDまで、あらゆる手段で戦ってきた顛末(てんまつ)は、『ぼくは眠れない』(新潮新書)に詳しい。

 ▼そもそも人はなぜ、眠らなくてはならないのか、まだよくわかっていない。筑波大などの研究チームは先週、睡眠をコントロールする2つの遺伝子を発見したと発表した。睡眠の仕組みの謎に迫る、大きな一歩になるかもしれない。

 ▼チームはまず、化学物質によって人工的に変異を起こした8000匹のマウスから、睡眠時間が極端に長いタイプと短いタイプを選び出した。それぞれに共通する、遺伝子の変異を突き止めたという。研究チームの柳沢正史さんらは1998年、眠りと目覚めに関わる脳内の神経伝達物質「オレキシン」を発見した快挙でも知られている。研究の成果は今後、睡眠障害の治療にも生かされていく。

 ▼日本で何らかの不眠症状に悩む人は、椎名さんを含めて成人の30%以上にも上る。睡眠時間については、こんな統計もある。経済協力開発機構(OECD)諸国のなかで、日本の女性で最短、男性は韓国に次いで2番目に短かった。

 ▼切実な悩みである睡眠の研究で、日本が世界をリードしているのも当然かもしれない。

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