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【産経抄】スマホの将棋対局室持込禁止の衝撃 10月9日

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【産経抄】
スマホの将棋対局室持込禁止の衝撃 10月9日

 29歳で夭逝(ようせい)したプロ棋士の村山聖(さとし)九段は、詰むや詰まざるやの終盤戦にめっぽう強かった。難解な局面でも、この人が「詰む」と言えば詰み、「詰まない」と言えば詰まなかったという。「終盤は村山に訊(き)け」の挿話は、早過ぎる死から18年を経た今も将棋界に語り継がれている。

 ▼幼くして難病のネフローゼを患い、後には膀胱(ぼうこう)がんに侵されながら対局を続けた。来月映画化される大崎善生さんのノンフィクション『聖の青春』に、命の期限を知る若者の悲痛な叫びがある。「僕には時間がないんだ。勝ちたい。そして早く名人になりたい」。

 ▼一分一秒が惜しかったに違いない。村山青年はしかし、パソコンやコンピューターソフトに見向きもせず、手で棋譜を並べ続けたという。頭脳を極限まで働かせ、高い駒音を響かせてこそ「究理」に価値があると考えたのだろう。盤上で命を削る棋士の自負を見る。

 ▼棋界は求道者の集まりと言われる。それゆえこのニュースの衝撃は大きい。日本将棋連盟が、スマートフォンなど電子機器の対局室への持ち込みを禁じる。対局中の外出も禁止だという。一部棋士の要望を受けた措置だが、利器を使って横着するプロなどいるのか。

 ▼将棋ソフトの強さはすでにプロ並み、あるいは超えたとも言われる。とはいえ、席を離れた棋士が裏でこっそり-の図は想像するだに情けない。相手が疑心暗鬼になるのも自己否定につながるようで寂しい。「指し手はソフトに訊け」では泉下の村山九段が泣こう。

 ▼実力制第4代名人の升田幸三に「新手一生」の言葉がある。誰も指したことのない手を指し名を残せ、と。愛棋家としては「時代の流れ」とうなずくまい。プロの矜持(きょうじ)を思えば不毛な規定と映るのだが、いかがか。

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