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【ソロモンの頭巾】
里海と心を育むアマモ場の再生 「乙姫さまの海草」はブルーカーボンの主役にも 長辻象平
「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ」という優雅な名前の植物をご存じだろうか。漢字を当てると「龍宮の乙姫の元結の切り外し」。沿岸の浅い海に生える緑の海草・アマモの別名だ。
ホンダワラなどの海藻と同様、藻場を形成する。ホンダワラ類の群落はガラモ場、アマモのそれはアマモ場と呼ばれる。藻場は稚魚や小型甲殻類などの生育場として機能し、持続可能な漁業に不可欠の存在だ。
かつて豊富なアマモ場が見られた瀬戸内海でも、戦後の干拓や高度成長期に進められた沿岸開発と、それに伴う水質汚染によって、藻場は激減していった。
この瀬戸内に漁民と市民と中学生と研究者が手を携えてアマモ場の本格復活に取り組み、全国の先進例となっている里海がある。
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岡山県備前市日生(ひなせ)町日生。瀬戸内海に面し、兵庫県と隣り合う漁業の町だ。大小の島々が浮かぶ日生の海でもアマモ場の大規模衰退を経験している。
日生のアマモ場は1950年代に590ヘクタールの面積を誇ったが、70年代には82ヘクタールと急減していた。
減少の1次要因は61年に襲来した第2室戸台風。この超大型台風で大量のアマモが根こそぎ流され、その痛手に瀬戸内の開発による水質悪化が追い打ちをかけた結果だった。