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【産経抄】越えられない試練はない 8月31日

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【産経抄】
越えられない試練はない 8月31日

 現在はパリを拠点にして、世界中で活躍しているピアニスト、フジコ・ヘミングさんの前半生は、苦難に満ちていた。一時は聴力を失い、食べ物に事欠く日々も続いた。

 ▼スウェーデン人の父、日本人の母との間に生まれたヘミングさんは、日本でもヨーロッパでもいじめに遭っている。それでも10年間分の日記を読み返してみると、楽しいと思ったことが5日くらいはあったそうだ。

 ▼「綺麗(きれい)な死に方すらできないけど、楽しい時もありました」。青森県藤崎町で、青森市立中学2年の女子生徒が、駅のホームから飛び込み、列車にはねられて死亡した。父親ら遺族が公開した、遺書の一節である。少女のスマホに保存されていた。どんな情景を浮かべていたのだろう。

 ▼少女は同級生から、無視されたり、暴言を吐かれたりするいじめを受けていた。子供の自殺は、夏休み明けに集中する傾向がある。少女が亡くなったのは、2学期の始業式の翌日だった。青森県では、別の公立中学1年の男子生徒が、始業式の3日前に自殺している。いじめを訴えるメモを残していた。

 ▼「もう、二度といじめたりしないでください」。少女が残した悲痛な叫びである。これまで同じ被害に遭い、死を選んだ子供たちも同じ遺言を残してきた。しかし、人の苦しみをなんとも思わない輩(やから)には、通じない。

 ▼「越えられない試練はない。ただ、渦中にいる時は、人はそのことに気づかない」。ヘミングさんは近著『たどりつく力』(幻冬舎)に書いている。「自殺を思いとどまりました」。コンサートに足を運んだ人から、こんな手紙を受け取ることもあるそうだ。いつか越えられる。とにかく生き延びてほしい。いじめに苦しむ子供たちに、これだけは言いたい。

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