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【正論】森林太郎はいかなる科学実験者だったのか 「鴎外」像を一新する西澤論文 東京大学名誉教授・平川祐弘

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【正論】
森林太郎はいかなる科学実験者だったのか 「鴎外」像を一新する西澤論文 東京大学名誉教授・平川祐弘

≪見劣りのする留学時代の研究≫

 ビールを飲んで尿をとってメスシリンダーの目盛を読み、比重を量るというおよそ初歩的な人体実験で、緒方正規、三浦守治、北里柴三郎など同窓の留学生に与えられた課題に比べ甚だ見劣りがする。森の実験の仕方も報告も「方法論的検討がぬかりなく行われているところに近代性を認めることができる」(宮本忍)どころか「あまりにも素人っぽい書きぶりは異様に際立って」おり、場当たり的だと西澤は判定した。

 30分毎(ごと)に必ず採尿すべきなのに、森はその辺はいい加減で素直でない。森の心底には儒教的学問観があって100日間、毎朝早くビールを1リットル飲んでトイレに入り浸るうちに「計測勘定の類(たぐ)いを小才覚のなせる技」という不快感が生じたのだろうか。それは意気揚々の留学生の得意とはほど遠い。

 森は、こんな人体実験は下僕にでもやらせればよいと思ったのか。いずれにせよミュンヘンで手がけた実験的研究が「鴎外が近代医学を身につけることに決定的な役割をはたした」といった定式化した評価には、どれほどの真実もないことを西澤は明らかにした。

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