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【産経抄】食いものは一日で無くなる 12月11日

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【産経抄】
食いものは一日で無くなる 12月11日

 野坂昭如さんは、14歳で酒の味を覚えた。昭和20年6月の神戸の大空襲で、養父は亡くなり、養母は大やけどを負う。自宅の焼け跡を掘り返すと、日本酒が出てきた。

 ▼空腹のあまり、夢中で飲んだ。戦後、芸能プロダクションのマネジャーやコント作家など、食うためについた職業は数知れない。やがて人気作家となり、歌手としてデビューし、選挙にも出た。その間、酒との縁が切れたことはない。

 ▼平成15年5月、在宅中に脳梗塞で倒れた。「当然の報いか」と、野坂さんは振り返る。以来、夫人の手厚い介護のもとで、リハビリに励んできた。テレビをぼんやり眺めていると、「胃袋番組」のたれ流しが目に余る。行列のできる店、名人の作る逸品、女性タレントのムチャクチャな食べ方、どれも気に入らない。今年3月まで、毎日新聞に連載していた「七転び八起き」では、しばしば食を話題にして、憤慨している。

 ▼野坂さんは、終戦の日から1週間後に、義理の妹を亡くしている。栄養失調だった。昭和43年に直木賞を受賞した、野坂文学の原点ともいえる『火垂(ほた)るの墓』は、当時の体験をもとにしたものだ。

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