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【産経抄】11月29日

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【産経抄】
11月29日

 「母」という字は、その形がどこかしら切ない影を引いているようにも映る。〈母は/舟の一族だろうか/こころもち傾いているのは/どんな荷物を/積みすぎているせいか〉。詩人の吉野弘が『漢字喜遊曲』の一節で、深い同情を寄せている。

 ▼悲しい積み荷を乗せた舟もある。「移植手術ができるものなら、ママの脳でも何でもあげたい」「一生懸命話しかけていたママの声、聞こえていましたか?」。21歳で亡くなった娘に、母親が語りかけた手記の一節という。娘は、地下鉄サリン事件で犠牲になった(『ここにいること』岩波書店)。

 ▼わが子、父や母、夫や妻、いつかは母親になったであろう人…。平成7年3月、オウム真理教が引き起こした事件は多くの人々から大切な人を奪った。狂った教義をかざし、市民を巻き添えにした凶行には風化も忘却もあり得ない。

 ▼だからこそ、教団の元女性信者も17年の逃亡を続けたのではないか。サリン事件の2カ月後に起きた東京都庁郵便物爆発事件で、東京高裁は逆転無罪とした。1審で採用した教団幹部の証言は「信用性に疑問」があるという。「時間の壁」が判決に響くというなら、それは長い逃亡生活の罪だろう。

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