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【産経抄】
日本一有名な家族 12月12日
日本人初のノーベル賞学者が誕生した昭和24年11月3日、湯川秀樹博士は、家族とともにニューヨークに滞在していた。妻のスミさんは、ちょうど日本の知人から送られてきた振り袖をトランクに詰めて、ストックホルムへ旅立った。
▼スミさんの振り袖姿は、現地で注目の的だった。なにしろ当時、スウェーデン在住の日本人は3人しかいない。舞踏会では、重い帯を締めたまま、汗びっしょりになりながら踊った。博士とダンスをしている写真も残っている。
▼今年の物理学賞に選ばれた赤崎勇、天野浩、中村修二の3氏は日本時間の昨日未明、スウェーデン国王から、メダルと賞状を受け取った。現地で日本のメディアの注目の的となったのは、天野夫人、香寿美さんのファッションと愉快な言動である。ダンスにも意欲を示していたが、こちらは実現しなかったようだ。
▼スミさんの自伝『苦楽の園』によると、博士と結婚して2日目の夜、早くもノーベル賞が話題になっている。「君が僕に勉強以外に時間をとられないように内助してくれたら」「自信がある」。スミさんは、博士の言葉を聞いて、命がけで守る決心をする。
▼天野さんは結婚前から、仕事が忙しいから家事は手伝えない、と宣言していた。香寿美さんは、2人の子供を育て上げ、今は若い頃から憧れていたロシアで、日本語を教えている。内助を果たしただけではない。見事に自分の人生を謳歌(おうか)している。
▼今や、日本一有名になった家族の笑顔から、たくさんの勇気をもらった。連日の行事参加と取材対応に、疲れもたまっているはずだ。普段は離れて暮らす4人が集まるのは、今年の正月以来だという。久しぶりの家族だんらんを、水入らずでしばし楽しんでいただきたい。
