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【産経抄】最後の望み 9月9日

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【産経抄】
最後の望み 9月9日

 今月6日、クラウディア・レオニードブナさんは、最愛の人との思い出の詰まった自宅で、93年の生涯を静かに終えた。かつての夫の蜂谷弥三郎さん、その妻の久子さん、それぞれの人生は、過酷としか呼びようがない。

 ▼朝鮮半島で敗戦を迎えた蜂谷さんは、引き揚げ船を待つ間に、旧ソ連兵に連行される。身に覚えのないスパイ容疑がかけられていた。久子さんと生まれたばかりの娘を残して、極寒のシベリアに送られる。

 ▼7年後に釈放されたものの、帰国は許されなかった。失意のどん底にあったとき、出会ったのが、やはり強制収容所暮らしを経験しているクラウディアさんだった。二人はやがて結婚する。ロシア南東部にある小さな村、プログレス村で、貧しいながらも静かな暮らしが、40年近くも続いていた。

 ▼その間にソ連は崩壊し、日本との連絡が可能になった。蜂谷さんは、久子さんが再婚せず、女手ひとつで娘を育て上げ、夫の帰りを待ち続けていることを知る。蜂谷さんの望郷の念を知るクラウディアさんは、帰国の手続きのために奔走した。そして1997年の春、シベリア鉄道で半世紀ぶりに日本に旅立つ蜂谷さんを見送った。

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