大規模国債発行で日本強靱化を 京都大学大学院教授・藤井聡

正論
京都大学大学院の藤井聡教授

 ≪秒読みに入った超巨大災害≫

 わが国は世界最大の災害大国である-多くの国民は今、その「真実」を痛感していることだろう。

 6月には大阪の「観測史上最大」震度を記録した大阪北部地震。7月には数多くの地点で「観測史上最大」降雨量を記録し、200人以上の犠牲者を出した西日本豪雨。

 同じく7月に「観測史上最高」気温を記録し、8月にかけて百数十人の熱中症死者を出した異常酷暑。9月には大阪湾での「観測史上最高」潮位を記録し、関西空港をはじめ大阪湾沿岸各地に大きな高潮被害をもたらした台風21号。

 そして台風が過ぎた翌日には、北海道の「観測史上最大」震度を記録し、すさまじい土砂災害と全域に停電(ブラックアウト)をもたらした北海道胆振東部地震-。

 豪雨や高潮は地震と必ずしも連動するものではないにもかかわらず、わずか11週間あまりでこれだけ「観測史上最高」が連発したのは、わが国があらゆる災害が襲いかかる「災害大国」であることの証左であり、かつ、各災害が文字通り「凶暴化」していることの証左だ。

 豪雨や台風が凶暴化しているのは、地球温暖化に伴う日本列島近海の海水温の異様な高まりの帰結だ。そして地震災害も同じく大規模化しているのは、東日本大震災のような巨大地震に象徴されるように、日本列島の地殻変動活動が未曽有の水準に活性化しているからだ。

 こうなれば、いわゆるメガ台風やメガ・クウェイクなどの「超巨大災害」が「秒読み」の段階に入ったと覚悟し、速やかに徹底対策すべしと考えるのは「常識」の範疇(はんちゅう)だ。

 ≪アジアの貧国に凋落しかねない≫

 こうした認識から、土木学会では「国難級」の自然災害に対して、最新のデータと技術に基づいて想定され得る最大の巨大地震、巨大高潮、巨大洪水の被害を推計している。その結果、東京の荒川や名古屋の庄内川での巨大洪水の合計被害額はそれぞれ62兆円と25兆円という、東日本大震災に勝るとも劣らぬ水準となった。

 東京湾や大阪湾の巨大高潮についてはそれぞれ110兆円と121兆円と、さらにそれらを上回る水準に達する結果であった。

 そして極めつきは首都直下地震と南海トラフ地震であり、おのおのの合計被害額は何と778兆円と1410兆円という、大方の想像をはるかに超える超激甚被害となることが示された。

 つまり、これらの三大都市圏を襲う巨大な高潮や洪水はたった一発で各都市を「壊滅」させ、首都直下地震や南海トラフ地震はわが国の心臓部を徹底破壊し、二度と先進国と呼ばれ得ぬ貧国へ凋落(ちょうらく)させ得る破壊力を秘めたものだったのである。

 これらは言うまでもなく、台風21号が過ぎた翌日に北海道胆振東部地震が起こったように「連発」し得る。もしもそうなれば貧国どころか、アジアの「最」貧国の一つにまでもなりかねない。

 土木学会では、これらの災害に対して最低限の堤防を河川と海岸に築き、救援道路を整備し、官民の都市施設の耐震強化を完了させ、全国各地に新幹線や高速道路を徹底整備することを通して、首都圏や太平洋ベルトからの「分散化」を速やかに促す必要性を指摘している。試算では、それによって地震・津波災害については4割から5割、高潮災害については3割から6割、そして洪水被害については6割から実に10割も減ずることができることを示している。

 ≪速やかに防災投資を推進せよ≫

 そうである以上、こうした「防災・強靱(きょうじん)化投資」を、年間数兆円規模で速やかに、例えば10年から15年以内に推進することこそが、わが国の最重要課題だと言わねばならない。万一、そうした投資が「緊縮財政」に阻まれ、大規模な国債発行を躊躇(ちゅうちょ)し、早期の強靱化の完了ができなければ、早晩、数々の巨大災害に襲われ、日本経済自体が根底から瓦解(がかい)することとなろう。そしてそれ以後、われわれ日本人は皆、激甚被害の後遺症にいつまでも苦しめられながら、貧困のうちにその人生を終えねばならなくなるだろう。

 防災対策は、(かのガダルカナル戦のような)「逐次投入」では、取り返しのつかぬ事態を招くほかないのだ。「速やかな徹底推進」こそが日本を守るのである。

 だからこそ国債を躊躇なく大規模に発行し、巨大災害に対して今、求められる技術的に合理性のある防災・強靱化投資を可及的速やかに完了せねばならない。それができなければ日本経済のみならず、日本の財政が大打撃を受ける。例えば、南海トラフ地震で政府は131兆円の税収を失う。復旧復興のための財政出動を考えれば、財政は150兆円から200兆円の規模で悪化するわけだ。

 財政当局が防災・強靱化を怠れば、財政基盤そのものを破壊させてしまう。こうした当たり前の論理が理解できない政治家や官僚は、わが国を滅ぼしかねないのである。(京都大学大学院教授・藤井聡 ふじい さとし)